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初カレ
“好き”なんて、言わなきゃよかった!
あんなやつ、あんなやつ、あんなやつ!!!
今日だって。
あたしがいつものように学校の昇降口で待ってたのに、全然来ないし。
クラスまで見に行ってもいないし。
あいつが行きそうなとこ色々探し回っても全然見つからなくって、疲れて昇降口に戻ってきたらあいつがいて。
「何やってんだよ、遅いぞ!」って言ってくる。
待たされたのはあたしの方で、遅れて来たのはあいつの方なのに。
あたしは悔しくなって、ムカついて、それであいつを睨みつけたら「なんだよ」とあいつが言うから『遅かったのはそっちじゃん!』って言いたかったけど悔しいのと悲しいのとムカつくのでいっぱいになっちゃったから何も言い返せなかった。
ほんと、なんなの?!あいつ!!
そのあと一緒に帰ってる時も友だちとの楽しかった話ばかりして、あたしの事なんてどうでもいいみたい。せっかくかわいいヘアクリップつけてきたのに、なんも言わないし。
あたしばっかりあいつのこと考えてて、あいつはあたしの事なんてなんにも思ってないようでなんかムカつく。
あたしばかり空回りしてる。
今だってずっと黙っているあたしの事なんかお構い無しでハマってる動画の話とか、攻略中のゲームの話してて。
しかも、微妙に動画の内容が違ってたり、攻略のアプローチが違ってたりで、ものすごくツッコミたい。
でも、ここでツッコミを入れたら、なんか負けた気になるから絶対教えてなんかあげないんだ。
「でさ、後ろにまわってシッポのとこからやったんだけどそれでも攻撃効かなくてー」
「・・・」
「仕方ないから今レベリングしてる」
「・・・」
「・・・」
2人とも無言になって。
「!!」
あたしの視界が急に揺れて、わわわっ転んじゃうー!ってぎゅっと目をつぶった。
でも、痛みはこなくって、かわりに左肩に柔らかい温もりと、鼻をくすぐるさわやかな香りと、体の右側を安定した何かに支えられているのを感じがした。
恐る恐る目を開ける見上げると、そこにはあいつの顔があって。
「なーに拗ねてんだよ」ってあたしが大好きなあの笑顔でみつめてくるんだ。
その瞬間、もうあたしは何も考えられなくなって。
今日、散々待たされて探し回ったこととか、
あたしの新しい髪飾りを褒めてくれないこととか、動画の話とかほんとどうでもよくなって。
ドキドキが止まらないから、こんなくっついててあいつに聞こえちゃうんじゃないかと思った。
でも、あいつの体にくっついたままの右耳からあいつの鼓動も聞こえてきて、あいつもすっごくドキドキしてるってわかった。
そしたらもっともっと好きな気持ちがあふれてきて、ほんとにどうしようもなく切なくなって。
ただあいつを見つめ返すのが精一杯だった。
「目、閉じろよ」
ってあいつが言って。
あたしが目を閉じたら、それが合図かのように、あいつはそっと唇を重ねて来た。
触れたか触れないか、よくわからないくらいでファーストキスはすぐに離されて。
もう終わり?
と、思って目を開けた瞬間、あいつはもっと激しく唇を奪ってきて。
あたしは目を瞠ったまま、あいつの口付けを受けたのだった。
意外と長いまつ毛も、夕日のせいなのか赤く染った頬も、彼の後ろにある灯りかけの街灯も、全てがあたしを酔わせてきて、あたしの体から力が抜けてふわふわした。あたしは崩れそうになる体を何とかしようととっさにあいつの背中に手を回しその体にぎゅっとしがみついた。
そんなあたしを、あいつはもっと強く抱き締めて、離さない。キスをやめても、しばらく抱きあったまま。
時が止まったみたいだった。
そのあと、家に帰っても、なんにもやる気になれなくて。
ママの「ご飯よー」って呼ぶ声も、
妹が勝手にあたしのネイル持ってっても、あいつのことだけしか考えられなくて。
こんなんじゃ勉強なんか出来ないし、美味しいご飯も食べられない。
もう、どうしてくれるのよ!
あいつのこと、“好き”なんて言わなきゃよかった!!
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