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あたしたちは最寄り駅で降り、二人無言で家に向かって歩き出した。
隣にいるのはあたしの彼氏、あたしの事が好きな男の子。
そう意識した途端、あたしはいっきに恥ずかしくなった。
顔が真っ赤になって行くのが自分でもわかる。
今までなんにも気にしていなかったのがほんとに申し訳ない。
「あのね、」
沈黙を破ったのはあたし。
「あたし・・・今まであんたのこと彼氏だって思ってなくって、、」
「・・・え、ホント?」
彼の寂しそうな、不安げな声に、こくんと頷く。
「ごめん」
「いや、謝られても、、俺、1人で空回りしてたのか、、、はぁ。」
彼の憂いを帯びたやるせない吐息がもれる。
「あ、違うの。えっとね、えっと」
「無理しなくていいよ、、俺が勝手に舞い上がってただけだし。・・・・・・ちょっと冷静になるわ」
そう言って彼は立ち止まる。
「今日から家まで送るの、やめた方がいいか。」
え?なんで?
彼に言われてあたしは、彼の腕を掴む。
「ヤダ。」
「ヤダって、、」
困惑する彼に、あたしは
「送ってくれなきゃヤダ。一緒にいてくれなきゃヤダ。」
とまくしたてた。
「でも、彼女じゃないのに毎日一緒にいて、家まで送っていくなんて、不自然だろ?」
と彼が言う。
そういうもんだろうか?よくわかんない。
でも、
「あたしには、あんたがいない方が不自然だと思えるんだけど。」
あたしがいうと、きょとんとした彼の顔は見る間にニヤけていく。
「・・・ほほう、、なるほど。」
何やら彼は得心したようで嬉しそうにあたしの肩を抱く。
「なに?なんなの?」
彼に肩を抱かれてドギマギしているあたしに彼は
「俺が焦って急ぎすぎてたって事だよ。お前は俺が思っていたよりずっと鈍感で、とんだお嬢ちゃんだったんだな。」
「ちょっと?何言ってるか分からないんだけど。」
「うんうん。ずっとそばにいて守ってあげないとなっ」
彼は何かを理解したらしい。
「ちょっと、なに勝手に話を進めてるの。ちゃんと言ってくれないとわかんないじゃん。」
「ちゃんと、ね。」
うん、ちゃんと言って。
「好きだよ」
ドクンっとあたしの心臓が大きな音を立てた。
「ずっと前から好きだよ。これからも恋人としてよろしくお願いします。」
そう言って彼があたしを見つめ優しく笑うから、もう恥ずかしさで頭がくらくらしてしまう。心臓はうるさいし、頭はクラクラするし。
「うん、」
と何とか絞り出す。
「『ちゃんと言ってくれなきゃわからない』よ?」
意地悪にも彼はあたしの言葉を茶化す。
ムッとして彼を睨もうと視線が彼を捉えた瞬間、私の中に溢れてきた感情が、あたしの意志を無視して声を紡いだ。
「あたしも、好き。」
言葉をいい終わる前にあたしの口は、彼のそれによってふさがれたのだった。
その夜。
彼の甘い口づけの余韻に浸っていると、スマホにメールが入る。
「早めに返事、聞きたいな(From先輩)」
忘れてた、、、
《完》
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