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手のひら
「意外と大きいんだねー!やっぱ男の子なんだ。」
俺の左手と彼女の右手をぴたりと合わせて彼女は言った。
女慣れ、どころか人慣れさえしていない(つまりはコミュ障)俺は、触れた手のひらの感触にドキドキが止まらない。
「ま、まあね、」
と言いながらサッと手を外し、作業に戻る。
俺たちは委員会の仕事で生徒に配る小冊子を束ねていた。
10冊毎にテープで束ねていたのだが、俺が3、4束作る間に彼女はやっと1つ束ね終わるかどうか、と時間がかかっていた。
あれ?そんなに難しい作業だったか?
と思い彼女の方を見ると悪戦苦闘していた。
俺と同じようにやっているのに、何故か彼女はなかなかテープが巻けない。
どうしてだろう?とぼーっと眺めてると、彼女もこちらの視線に気付いたようで
「あ、何サボってんのー?ちゃんとやってよっ。」
と、こっちを見る。
「や、やってるよ、、」
言いながら彼女の3倍以上積み上げられた冊子の束を見遣る。
「え?もうそんなに?!」
彼女は驚いて近づいてきた。
「どうやったらそんなに早くできるの?やって見せて。」
「あ、いいけど、、」
俺は先程やっていたように冊子を10冊とり、トントンと机の上に立てて揃える。
「え?まって!」
彼女が言う。
「うん?」俺は冊子を掴んだままの状態で手を止めた。
「それだ、きっと。」
そう言うと彼女はおもむろに俺の手に自分の手を添えると、手のひらをいっぱいに開いて見せた。
「あっ!」
「ね?」
彼女の手は小さく、片手で10冊分の冊子を掴むことが出来ないのだ。
「ちょっと合わせてみていい?」
そう言って彼女は右手をこちらに向けて掲げた。
「あなたって手が大きいのね」
「お、男だからっ」
まだドキドキがおさまらない。
彼女の白くて華奢な手のひらはひんやりと冷たく、彼女の繊細さを物語っているようだった。
手のひらが触れただけ、それだけなのに彼女の存在が急に大きさを増す。
良く考えればここには彼女と自分、2人きりしかいなく、扉も閉じられている。
こんなことで緊張するのか、俺は!!!
「あのっ、俺、1人でやれるからっ。帰っていいよっ」
この状況から抜け出したくて思い切って提案してみる。
「やー、悪いよぉ。私の仕事でもあるし。そりゃ私は束ねるの遅いけど。それ理由にしてなんにもやらないのは違うんじゃない?」
俺の目論見は見事に失敗した、だけでなくさらに悪化した。
「あ、じゃあさ、こうしよう!」
「ど、どうするの?」
「あなたが、こうやってぇ、、」
と彼女は俺に冊子を10冊掴ませ、
「で、私はあなたが押えてる冊子にテープをかけるの。どう?早いでしょ?」
いや、それ、俺一人の方が早くない?と言えるはずもなく、彼女の提案通り2人がかりで1束ずつ作ることになった。
二人きりの上に至近距離での作業とは、、、緊張でどうにかなりそうだ。
作業は思った通り捗らず、全部束ね終わる頃には外はすっかり真っ暗になっていた。
「終わった終わった、おーわったー!」
彼女は楽しげに帰り支度をしていた。
ふと、
「ね、帰りにちょっとお茶しない?」
寄り道の提案をしてくる。
女の子とお茶!なんとハードルの高いことか!
できれば今日はさっさと帰ってしまいたい。
「あ、はい、、えーっと、」
断るぞ、断るんだ!
「よし、そうと決まったらさっさと行こっ!」
おおう、、なんと言うこと、、
《続く》
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