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水かがみ
雨上がりの校庭にできた水たまりは太陽の光を受けて空の青さを映していた。
それはまるで、今の彼女自身を表しているようだった。
雨の降りしきる中、僕は彼女に呼び出され、校庭の片隅にいた。
「私、わかってたんだ。」
彼女はすこし遅れてやってくると突然そう切り出してきた。
「ん?何が?」
と、何を言われているのか皆目検討もつかない僕は、びっくりして彼女に聞き返す。
「最初から、あなたがそんなに私のこと好きなわけじゃなかったってこと。」
んんん???話が見えないんですけど?
「え?そんな事ないけど?」
僕が彼女に告白したのは半年ほど前で、それから順調に交際を続けてきた、と僕は思っている。
「・・・うそ。目が泳いでるし。どうせノリとかそう言うので告ったんでしょ?」
彼女は何故か決めつけてきた。
人生初の告白をそう言われてしまった僕は、あの時の緊張と不安と勇気を全否定されたようでなんだか居た堪れない気持ちになった。
彼女は僕の何をみてあの告白を受け入れたのか。ただただ疑問でしかない。
「他に好きな人がいるのなら、言ってくれればよかったのに。」
「?!!なんの話?!」
やはり話が見えない。
「隠さなくていいよ、、私、知ってるの。あなたが先週の土曜に他の女の子とデートしてたの。」
なるほど、彼女は僕の浮気を疑っているのか。
しかし、先週の土曜?女の子?なんのことだ?
「先週、、土曜、、買い物行ったなぁ、、」
とそこまで思い出して口を噤んだ。
僕は来月の彼女のバースデープレゼントを買いに行っていたのだ。
「誰と?」
彼女は厳しい口調で聞いてくる。
「あ、えーっと、1人だよ。」
彼女へのプレゼントを買うところを誰かに知られるのは嫌だったから、一人で行ったのだ。
「うそ。他の女の子と楽しそうにデートしてたのを私は見たのよ。」
「え?!!!誰と?!!」
全く心当たりがない。
「誰かなんて、私が知るわけないじゃない。あなたも間抜けよね。私がよく行くショップで他の子と、、、私が気付かないとでも思ってたの?」
俺は確かにその店に行ったが、誰かと一緒には行っていない。
必死でその時の記憶を辿る。
ふと、心当たりがある。
僕が商品を選んでいる時に近くで転びそうになった女の子を抱き止めたのだ。
その時弾みで商品を壊してしまい、二人で店員さんに謝ったり、女の子からお詫びを言われたりしたのだ。
おそらくそのあたりを彼女がみたのだろう、声が聴こえないような距離で。
「あーっ、あれは。違うから、ホントに。」
僕はその時のことを説明しようと口を開くが
「浮気する人って必ずそう言うこと言うのよ」
と、彼女は全く話を聞こうとしない。
「いいのよ、もう。私も他に好きな人いるしっ!」
彼女は怒ったように言う。
それが嘘であるのは彼女をずっとみてきた僕にはすぐにわかる。辛い気持ちを出さないよう頑張る彼女の意地っ張りなとこが、僕は大好きだったのだ。
「別れてあげる。」
え?いや?え??
ちょっとまて。なんだ、この展開。
彼女は自分の思い込みで勝手に悩んで傷ついてありもしない辛い現実から立ち直ろうとしているようだ。
まるで悲劇のヒロインになったよう、とはよく聞くセリフだが、そのままそっくり彼女の今の言動をうまく表現できる言葉が他に見つからない。
僕は呆気に取られ何も言うことができずにいた。
「ありがとう、あなたと付き合えて、よかった。」
彼女は悲しげだけどさっぱりしたような笑顔を浮かべ、僕に別れを告げる。
そして茫然と立ち尽くす僕の前から彼女は去っていったのだ。
気がつくといつのまにか雨はやみ、空は晴れていた。
目の前の校庭にできた水たまりをぼんやり眺めながら、僕は途方に暮れるのだった。
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