片恋

1/1
前へ
/26ページ
次へ

片恋

「ねえー、これ昨日ね、」 と言って幼なじみである彼女が見せてきたのはスマホの画面に映し出された一枚の画像。 そこには、彼女と彼女を守るように肩を抱く男の子が仲良く微笑んでいた。 「え・・・」 言葉に詰まる私に彼女は続ける。 「彼が撮りたいって言ってね、」 いつの間にそういう関係になったの?と聞こうとしたけど、喉が詰まってうまく言葉が出せない。 「次の休みには一緒に遊び行くんだっ」 はしゃぐ彼女になんとか「よかったね・・・」とつげた。 もう彼は彼女のものなんだ・・・。 画面の中の照れくさそうな笑顔がそれを決定づけていた。 「じゃあ、これからはもう一緒に帰れないね」 と私はみえっぱりで彼女に微笑んだ。 「うん、ごめんー、でもいろいろ応援してくれてありがとう!大好きだよぉ〜!!」 と彼女は私に抱きついてくる。 そんな彼女を両手で抱きしめながら私は、自分の顔が暗く沈んでいるのを見られなくてよかったと、心から思った。 彼とはずっと同じ部活だったが、特に話す機会はなかった。 私が入部したての頃、彼はあまり上手くなくてみんなから遅れていた。だがその一年後には部の誰よりも上手くなっていた。 みんなは驚いていたけれど私は知っていた、彼が一人で猛練習していたのを。 朝も早くきて自主練し、帰ってからも公園で練習しているのも、休み時間にトレーニング法の本などを熱心に読んでいたのも、全部。 何度も何度も同じ練習をして上手くいかなくて叫んだり苦悩してる姿を、私はずっと見てきたのだ。 そんなひたむきに頑張る彼を好きになったのはいつの頃だろう。 新年度になって彼と同じクラスになった彼女が彼のことを聞いてきた。 「彼、あなたと同じ部活なんだって?どんな人?」 と聞かれて正直困惑した。 少し考えて、 「・・・あまり話したことないから」 と曖昧に答えた。 嘘ではない。 実際、ほとんど話したことがなかったのだから。 けど、そう答えながら私は、私だけが知ってる彼のことを誰にも教えたくないんだと、誰にも奪われたくないんだと、その時初めて気がついたのだ。 それ以降彼女は、私の友達という名目で部に顔を出すようになり、いつのまにか部に溶け込んでいた。 彼女は彼への恋心を全く隠さなかったが、反面、他の部員にも嫌味に思われることもないように振る舞っていて、私には到底太刀打ちできるものではなかった。 そんな彼女が寄せる好意を、彼は快く受け入れたのだろうか。 それとも彼女が向ける純粋な想いに、彼の方がもっと惹かれていったのだろうか。 同性からみても彼女は素直で可愛らしく、守ってあげたくなるような子だ。 私も彼女のことは大好きだし、応援してあげたいと思った。 だけど、彼女が好きになったのは私の好きな人で。 私の方が彼女よりずっと前から彼の良さを知っていた。 私の方が先に好きになったのだ。 私は未だに彼とは上手く話すこともできないのに、彼女はあっという間に距離を縮めて、その恋を見事に成就させたのだ。 でも、彼女は知らないのだ。彼がものすごく努力をして、見えないところで苦しんでいることを。 そんな苦しんでいる彼を本当にわかってあげられるのは私しかいないのに。 自分の中で、いろいろな気持ちが渦を巻いていて、私はぐちゃぐちゃになった。 ホントは消えてしまいたいくらい心が痛くて苦しいのに、泣き声のひとつもあげることができない。 一人でいる時でさえ素直になれない自分なんて、愛されるわけ、ない。 どうしてもっと素直に好きって言えないの? なんで彼をとられて悔しいって言えないの? 私だって一生懸命彼が好きだった! 誰よりも彼が好きだった! 彼女より私の方が彼を幸せにしてあげられ、、、ないかもしれない。 私より彼女といた方が絶対楽しいし、彼女と恋人の方がみんなからも祝福されるに違いない。 同じような感情が何度も何度も巡ってきては私を追い込むのだった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加