ライバル(偽)

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ライバル(偽)

「マジかー!」 「マジだー!」 顔を見合わせて笑う。 甘い匂いに包まれたキッチンで丁寧にチョコレートを刻んでいた私は、隣で湯煎の用意をしていた彼女の言葉に複雑な気持ちになった。 今どき、バレンタインで告白なんて考えてもないけど。 誰にあげる?本命いる?なんて話を何気なくふったら 「いるっちゃあ、いる」 って返ってくるもんだからすごく焦った。 全然好きな人いる素振りなんてなかったから。 「えー?だれだれー?」 って聞くけれど、ぶっちゃけ誰かなんてどうでも良くって。 私は彼女に好きな人がいることが衝撃だった。 いつも一緒にバカやってた彼女が、私を置いて大人になってしまったような気がして不安になった。 今の私は、バレンタインだって、雰囲気が楽しくてチョコ作ったり可愛く飾ったりするのがやりたいだけなのだ。 恋愛なんて、まったく考えたこともない。 「いやー、あたしだけ言うのってずるくない?あんたはどうなの?」 聞き返されて戸惑う。いるはずがない。 いるはずないけど、 「ん、もちろんいるよっ」 こう答える他ない。 「で、誰よ?」 「ヒミツっ!そっちから言ってよ。」 「じゃぁさぁ、同時に言おうよ!」 「えーやだなぁー」 などとやり取りをしながら時間を稼ぐ。 これはもう、絶対誰が好きか言わなきゃならない流れだよね。 何とか適当な誰かを好きな人にしなきゃならないと考えた私は身近な男子を手当り次第思い出そうとした。 で、 「いくよー、せーのっ」 って彼女が合図したので、慌てて1人の名前を告げたのだ。 それが、まさか、彼女も同じ名前を言おうとは、誰が予測できただろうか。 もう、笑うしかない。 「あいつってー、いつもふざけてるけど、困ってる時は絶対助けてくれるんだよね」 「うんうん」 「でも、サッといなくなってお礼とか言わせてくれないから」 「あるあるー」 「いつものお礼って言ってチョコ渡そうかなって思ってるんだよー」 「あたしもー!」 彼女の言葉に相槌を打ちながら、 彼ってそういう人だったのかと初めて認識した。 「やっぱ、みんな好きだよね」 「競争率高いかもー」 テキトーに合わせて言うんだけど、まったくわからん。 だけどもう、取り返しがつかない。 私が好きな人は彼に決まった。 決まったからにはしょうがない、頑張って好きなふりしなきゃ。 「でも、あんたがライバルかー・・・」 「ん?」 「全然気が付かなかったよ、あたし。いつも一緒にいるあんたの変化がわかんないくらい、あいつのことしか今は考えられないんだなー、きっと。」 そりゃそうだ、私は何も変わってないんだもの。 「隠してたからね〜アハッ」 上手く誤魔化せてるだろうか。 「あたしの方は?バレバレ?」 この問には答えず、私は笑顔を返す。 困った時はこうするといいって、誰かが言っていた。 「そっかぁ、そうだよねぇ。好きなの漏れすぎヤバいw」 彼女は勝手に都合のいい解釈をしたようだ。 「あ〜~!!もうっ!!」 彼女は自分に踏ん切りをつけるかのように急に大きな声を出して自分のほっぺをパチンと両手で挟んだ。 「美味しいチョコ、つくろ!そんで、2人で告白しよっ!」 「そうだね」 「どっちが選ばれても恨みっこなしね?」 「うんうん」 私は止めていたチョコを刻む手をまた動かしながら、湯煎のお湯を温め直す彼女をこっそり見た。 彼女は、覚悟を決めたような、さっぱりとした凛々しい顔で作業をしていたが、どこか憂いを含んだミステリアスな空気を纏っているように思え、それが私と彼女の違いを感じさせた。 ああ、これが恋をするということなのか。 今日の彼女は、私が今まで見てきた中でいちばん美しい顔をしていた。 それに比べて、自分の、なんと幼いことか。 好きな人がいないだけならまだしも、彼女に置いていかれたくない一心で嘘をついた。 嘘をついた上に、あろうことか彼女のライバルになってしまったのだ。 嫌だ。 彼女に遠くに行って欲しくない。 私とずっと一緒にいて欲しい。 こんなのは単なるわがままだ。 私だって時が来れば好きな人もできるだろうに、今彼女に好きな人がいるのが嫌でしょうがない。 こんなに綺麗な彼女が告白したら、きっと誰だってOKしちゃうだろうな。 そうして、私は置いてかれるんだ。 一人になっちゃうんだ。 そう思ったらじわじわと視界がゆがみ始め、とうとう、ぽたり、と涙が落ちる。 何気に、 「そっちどんな感じー?」 と私を見た彼女が、慌てて寄ってくる。 「あぁー、泣かなくていいよ、もう。お互い様じゃん。しょうがないよー」 って抱きしめてくれたから、もう、涙が止まらなくなって。 彼女の可愛いエプロンを思う存分汚してしまうことになった。 違う、違うの。 今私が泣いているのはあなたに申し訳ないからでも、恋の行方が不安だからでもなく、自分が惨めで可哀想で最低な人間だとしってしまったからなの。 本当にごめん。 こんなんじゃ、あなたの友達でいる資格なんて、ないよ。
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