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大切なもの
《いつなら会える?》
彼女からスマホに届いたメッセージは昨日の夜のものだ。
さて、どうしたものか。
1つ年上の彼女とは、付き合って2年目になる。
彼女は県下でもトップクラスの進学校に通う才女だ。
自分も今年同じ学校を受験する予定だったのだが、最近担任が渋い顔をするようになった。
彼女と同じ学校に通うため毎日必死で勉強をしていたが、成果はあまり芳しくない。
そんな折り、友達に誘われて行っある高校のオープンキャンパスで、すべては変わった。
その高校は自由な校風と多彩な部活動が有名であったが、実際目の当たりにして俺は衝撃を受けた。
部活動や個々の研究などで存分に実力を発揮し高い評価を受ける生徒たちは、誰もが輝いてみえた。
それ以来、俺の頭の中はあの高校のことでいっぱいになった。
あそこに入れば自分も好きなことを見つけて打ち込めるだろうか。
もっと自分の可能性を広げられるのではないか。
俺の志望校が変わるのは自然の成り行きだった。
あの、個性を大事にする高校に行きたい。
その気持ちが俺の勉強に対するモチベーションとなり、成績はまた上り調子になった。
《彼女の通う高校には行かない》
このことを彼女に伝えるべきかどうか。
彼女の事は大好きだったが、今の俺には彼女のことより自分の将来を楽しみたい気持ちが強い。
頭のいい彼女のことだ、別の学校を受験すると言えば俺の心変わりを察知して詰るのだろう。
場合によっては他の女子との仲を疑われるかもしれない。
受験のこの大切な時期に、彼女と揉めたくない。
面倒臭い、煩わしい。
出来ればこのまま会わずにフェードアウトしたい。
彼女からのメッセージは今日も届く。
《忙しい?》《勉強大変?》《教えてあげよっか?》etc.
一見、どれも俺を気遣うような文だが、端々に彼女自身の優位性を誇示するようなニュアンスが含まれており、返事をする気がおきない。
彼女が同級生や下級生ならば、こんな風にイライラさせられることもなかったのだろうか。
これ以上このことを考えているのは時間の無駄、と俺はスマホを置き、机に向かった。
今はあの高校に入ることが1番大事でそれ以外のことは受験が終わってから考える事にしよう。
彼女からの連絡は全て通知OFFにし、勉強に取り組むことにした。
月日が流れるにつれ、次第に彼女は俺の中で存在感が薄れていった。
それから二月程だった。
3日後に本命校の入試を控えたその日、1本の電話を受けた。
はじめ、知らない番号からの通知に警戒したが、なかなか鳴り止まないため仕方がなく受話すると、彼女の母親からだった。
彼女のスマホから何度も連絡したが連絡が取れずやむなく自分のスマホからかけてきたのだと言う。
彼女がどうかしたんですか?と聞くと、しばらくの沈黙の後、彼女が交通事故で命の危険があると伝えてきた。
「今病院にいる、あなたに会いたがっている」
《続く》
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