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彼女が息を引き取ったはあの電話のすぐ後だったらしい。
安らかに眠る彼女は、俺の記憶の中の彼女より大人びていて、美しかった。
事故を目撃した人曰く、彼女の態度は『死を受け入れているかのようだった』
俺はまったく知らなかったが、彼女は新しい学校に馴染めずGW以降、ほとんど学校に行っていなかったらしい。
ほんとうに、全く知らなかった。
夏休みも一緒に勉強したり、遊びにいったりもした。
お互いの誕生日も祝いあった。
何度も会っていたのに、一度もそんな素振りを見せなかった。
彼女は自分の悩みを何も話してくれなかった。
おそらく話せなかったのだろう。
受験生の俺に負担をかけたくなかったのか、それとも弱みを見せたくなかったのか。
彼女からのメッセージがすこし偉そうだったのは、虚勢を張っていたからなのかもしれない。
今となってはわからない。
おれは激しく後悔した。
なぜ、ちゃんと彼女と向き合わなかったのか。
高校の事もきちんと話せばよかった。
俺はずっと、自分の事でいっぱいいっぱいで余裕がなかったんだと思い知らされる。
「『高校受験、頑張って』と、あなたに伝えて欲しいと、、」
涙を流しながら彼女の母親が言う。
俺は黙った頷いた。
彼女の告別式が行われた日は受験日と重なり、彼女の母親の言葉もあって俺は試験へ向かった。
しかし、試験をまともに受けられるほど俺は豪胆でも冷酷でもなく、結果は言うまでもなく、惨敗。
1ヶ月後には彼女の通っていた(と言えるかどうかは微妙だが)高校の入試がある。
本命に落ちたら受けるつもりだったし、前回の模試では合格圏内であったから、これから頑張れば何とかなるかも知れない。
そうとわかってはいるが、いくらペンを動かしても、どんなに参考書をめくっても、まったく頭に入ってこない。
頭の中は彼女のことでいっぱいだ。
よく流行りの歌の歌詞にある「失って初めて気づく」とはまさにこのことなのだろう。
自分本位で生きてきた罰なのか。
俺はそんなに悪い事をしたのだろうか。
彼女を失ったばかりか、本命校にも、行けなかった。
彼女に会いたい、抱きしめたい。
そう思いながらも、彼女のせいで受験が台無しになったことを恨む気持ちもある。
二律背反な感情を抱えたまま、あれから1ヶ月が過ぎようとしている。
《完》
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