シンクロ

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シンクロ

ひとつなら普通。 ふたつなら偶然。 では、みっつなら? 「それ、僕のなんだけど。」 不意に声をかけられ顔を上げると、クラスメイトの男子がこちらを見下ろし、私の手元を指さしていた 今日が提出期限のレポートを必死で書いていた私は、右手にシャープ左手に消しゴムを持っていた。 「え?どっち?」と間抜けにも聞いてしまったが、両方いつも使っているものであるから間違えていない。 「そのシャープ、よく見て。」 ・・・ん? 「ほら、ここ」 そう言って男子は手を伸ばし私が握ったままのシャープを強引にまわし、握り手少し上当たりを指さした。 そこには小さく彼のイニシャルが入っていたのだ。 「あっ」 「ちゃんと確認しなよ」 「でもなんで?」 「僕が知るわけないだろ。返して。」 彼が差し出した手の平に今まで握っていたシャープをそっと乗せた。 本体がアーミーグリーンで握り部分に個性的な形のラバーが施されたそのシャープは、数ヶ月前にやっていた文具イベントで手に入れたもので、そう簡単には手に入らないものだった。 「あの文具イベント、行ってたの?私もああいうの大好きでー」 私と同じ、文具好きなのかな。 そう思ったらちょっと彼に興味がわいたんだけど、彼の口から発せられた言葉は 「キミに関係ないだろ」 ・・・にべも無い返事。 マジムカつく!!! 勝手に使ったのは悪いかもしれないけどさ、 間違えたのはしょうがないじゃん! 心の狭いヤツめ! 自分の席に戻る彼の背中を睨みつけ、心の中で存分に悪態をついていると 「どしたの?」 と声をかける友の声に我に返る。 「いや、なんでも。なに?」 「あ、これ、あたしのペンケースに入ってたよ」 差し出されたのは件のシャープ。 「おお、ごめん。ありがとねー」 と受け取ったがなんだか微妙な気分。 この、ちょっと変わったシャープはあいつとお揃いなのだ。うーん。 文句を言ってもしょうがないんだけど。 このシャープに罪はない。 気を取り直し、再びレポート作成にとりかかった。 そんなことがあって翌日、体育の授業の前の休み時間のこと。 またあの男子が声掛けてきたのだ。 「今度はなんなの?」 前回のことを思い出してイラだち気味に言ってしまったのは不可抗力だ。 「これ、キミんだろ」 彼が差し出したのは私の体育着入れだ。 スーツケースを模したラウンドファスナーの四角いプラスチックポーチで、ゴツいナスカンがついている。カラーリングもメタル感があって特徴的だ。 「なんであなたがもってるのよ」 「クラスの奴が僕のだと言って渡してきたんだ。中を見たら僕のじゃなかった。」 「人のもの勝手に中見たの?!」 最悪、、、 「見なきゃ誰のか分からないだろ」 それもそうだけど。男子に勝手に見られるのは、なんかイヤ。 「だいたいキミはシャープといい、このケースといい、持ち物に可愛げがないんだよ」 その言葉にカチンときて、思わず 「いいと思って気に入って使ってるんだからいいじゃん。よく知りもしない奴にそんなこと言われたくないっ!」 と怒鳴ってしまった。 「キレないでほしい。悪いとは言っていないだろ。」 う、、まあ。 「そもそも、僕も同じもの使っている訳だし。」 ええ、、そうでしたね、、 「これに懲りたら記名するなりなんなり、分かりやすくすることだね」 おっしゃる通りよ、バカヤロウ! 《続く》
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