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「またキミか。」
無言で彼に差し出したのは、チャコールグレーの革手帳。
「今度はこっちにきたみたい。・・・中は見てないわよ。」
前回彼に言われたあと、私は自分の持ち物全てにマークを入れた。
だからこの手帳が自分のでないことは分かっていた。
「見ずに、どうして僕のだとわかった?」
「あなたの物かは知らない。中を勝手に見るなんて失礼な事、私はしないし。」
嫌味っぽく言ったあと続ける。
「どうせあなたのだろうと思って持ってきてあげたのよ。違った?」
手帳を受け取って少し確認すると彼は
「いや、僕のだ」
やっぱり。
「僕は、きゃあきゃあ騒いでる女は嫌いだ。キャラクターグッズを持ち歩いてる奴も、精神年齢を疑う。」
唐突に彼が持論を展開し始めた。
その勝手な言い分に私はムッとして
「あなたの女の趣味なんかどうでもいいし、キャラ物だろうがなんだろうが好きな物持ってること否定するのはどうかと思う。」
言い返した。
「どうでも良くない。キミは持ち物のセンスがいい。今の切り返しもとても俺の趣味に適っている。これはもう、付き合うしかないと思うんだが、どうだろうか。」
んんんん?
「はあ?」
聞き間違いか?付き合うとかどうとか言った?
「どうも要領を得ないようだな。では試しに今日は帰りに大型文具店に行って確かめてみようじゃないか。」
「え、なにを?」
「僕とキミの相性がこの上なく合っているってことを、だ。」
そう言って不敵な笑みを浮かべると、彼はおもむろにその手に持った手帳に几帳面に予定を書き入れたのだった。
なんか釈然としない。
単純でわかりやすいと評判の私と、あんな嫌味な奴が相性がいいわけが無い。
たまたま同じものを持っていただけでなんでそうなるのよ。
ふつふつと考えながら席に戻ると友に声をかけられた。
「やったじゃん!おめでとッ!羨ましわ~。」
と言われ、
「何がよッ!」
と不機嫌を声に載せる。
「みんなの前で告白されて、この後放課後デートとか、この、幸せ者っ」
「デートじゃない、これは対決よ!」
「対決?」
「そう、対決。あいつの言い分が正くないことを、証明してみせるわッ。」
「あたしには、彼とあなたがとてもお似合いに見えるけど?」
「そんなこと絶対ないから。」
「そ。まあ、せいぜい楽しく痴話喧嘩してきたら。」
そして。
彼との文具店での事は一言で言うと、散々だった。
私はその悔しい結果を友に報告した。
友曰く、
「夜中にわざわざ電話してきて惚気話とかイヤミか!」
だそうで。
なんでこうなった、、、
《完》
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