第三章

1/1
前へ
/37ページ
次へ

第三章

 丘からロンハルト側に降りていく道は、不思議に満ちていた。  手のひらと同じくらい小さい、背中に羽の生えた人が、蝶や蜂のように飛び回っている。淡く光る丸い物体が、こちらに気付いて飛んでくるが、ことごとくデュドネとオーバンが弾き飛ばす。 「きゃっ!」  ラナもさっきから丸い物体を杖でたたき返している……が、 「宝石で叩くな!傷がついたらどうする!?」  デュドネが怒り出した。 「だって飛んでくるんだからしょうがないでしょ!」 「魔法を使え魔法を。何のために女神のアメシストを渡したと思ってるんだ?」 「魔法ってどうやって?」 「杖を相手に向けて、念じろ」  ラナは言われたとおりにやってみた。  すると、杖の先のアメシストから光の筋が飛び、丸い物体に向かって飛んで行った。  丸い物体は、光に包まれ、消えた。 「えっ?何今の!?すごーい!!」 「それくらいで喜ぶな。ロンハルトなら3歳児でもできることだ」  デュドネは冷たく言い放つと、森の中をさっさと歩いていく。 「もう少しで、アンセルム様が幽閉されている塔に着く」 「アンセルム……」 「ロンハルト王の弟で、大魔道士だよ」  オーバンが小声で耳打ちした。ラナは荒野で聞いた話を思い出した。ひどい王様に苦しめられている国民がアンセルムに助けを求め、そのアンセルムは塔に幽閉された……。 「大魔道士って何?」 「最高の魔道士ということだ。数百年に一人しか現れない強い魔力の持ち主なんだが……」  デュドネはそこで言葉を切った。  ラナはその続きが気になったので、オーバンに聞いてみた。 「会ってみればわかるよ」  オーバンもそれしか教えてくれなかった。 「何をしている!早く来い!」  デュドネが叫んでいるのが聞こえた。  ラナはナイフを拾い、荷物の中に入れると、慌てて森の中を走って行った。 「ほんとに、ここにいるの?」  ラナは、たどり着いた塔を見上げて、呆然としていた。  赤黒い塔には、あちこちにひびが入り、外壁の一部は落ちて、大きな穴が開いている。人が住んでいるとは思えない。ましてや、『幽閉』できる建物にも見えない。 「王様の弟なんでしょ?大魔道士様なんでしょ?」 「王にとっては、自分の地位を狙う敵のようなものだ」 「しかも、自分は魔道士になるほど魔力なかったんだもんね」 「そうなの?」  意外だった。魔法の国の王なら、強い魔力を持っていないと務まらない気がするが……。 「魔道士は魔力の強いものがなる。王や大臣には、血筋だけ高い地位の馬鹿がなる」  デュドネが完全にバカにした口調でつぶやいた。 「前から思ってたけど、あなたって嫌味ね」 「本当のことを言って何が悪い」  ラナは呆れた。こんな性格では、自由主義のイシュハでも、周りは敵だらけになりそうだ。しかも、デュドネは身分制度が厳しいロンハルトの人間のはずである。  今までどうやって生きてきたんだろう……? 「デュドネ~」オーバンが弱った声を上げた「偉い方の前に出るんだから、悪口は控えたほうがいいよ」  ラナはオーバンとデュドネを交互に見た。どうやらこの二人、自分に足りないものをお互いで補っているらしい。魔力はあるが気遣いがないデュドネ、優しいが魔力のないオーバン。 「言われなくてもわかっているさ」  デュドネは入口の門番に金を渡した。門番は無表情で、錆びて赤くなった鉄の扉を両手で押した。  扉はゆっくりと開き、ギギギ、という耳障りな音を立てる。重そうだ。  通路は真っ暗で、黒い闇のはるか奥に、松明のような明かりがぽつんと見えるのみだ。 「よく、ゴホッ、来てくれたねっ、ヘークシュン!!」  塔の奥、薄暗くかび臭い部屋。  ラナたちを出迎えたのは、ベッドでくしゃみをしながら鼻をかんでいる、長髪の男だった。  きれいなブロンドで、顔だちも端正だ。ただし、鼻をかみすぎて鼻先が赤く、熱があるのか、ほおも赤く染まっていて、お世辞にもかっこいいとは言えない。 「き、グスッ、君が、女神に選ばれた、ゲホッ、アメシストの持ち主だね?ブッ」  アンセルム……王の弟で、大魔道士である……が、親しげにラナに話しかけた。 「はい」  ラナは、目の前の『大魔道士様』を見ながら、困った顔でうなずいた。 「今この国は、ズルズル」アンセルムが鼻をすすりながら話し始めた「情勢が不安定なんだ。ロンハルト王は残酷で、少しでも気に入らないことがあるとすぐ人を死刑にする。毎日、城の外に吊るされている死体が増えているそうだ。友好関係を保っていた隣の国も攻め滅ぼしてしまうし……人の暮らしも悪くなる一方だ。このままではいけな……ヘークション!!」  アンセルムは上体を大きくそらせてくしゃみをした。鼻から何かが飛んだ。 「だからね、ズルッ」鼻がたれたままで、ラナのほうを向いた「シンシア・ツヴェターエヴァと協力して、魔力のある宝石を王に渡さないようにしたい」 「ロンハルト王より先に、宝石を手に入れろということですか?」 「そう!頼むよ!」  アンセルムが身を乗り出してきて、ラナの手を両手で握った。何かをお願いしたいポーズだが、ラナは目の前の鼻水だらけの顔に驚いて、硬直してしまった。 「この国と僕の未来が、君にかかってるんだからね!」  ラナはどうしていいかわからずデュドネの方を向くと、デュドネは白けた顔で壁の隅を横目で見ていた。  オーバンは、下を向いて小刻みに震えていた。笑うのを必死でこらえているようだ。  ラナは何も言うことができず、黙って礼をし、ゆっくりと鼻水のついた手を離して、走って部屋から出た。手を洗う場所を探すためだった。 「あんな人が大魔道士で大丈夫なの!?」  外に出て、塔が見えないところまで歩いたところで、ラナが叫んだ。  今会ったばかりの『大魔道士様』は、あまりにもたよりない男で、王の代わりになるとは、ラナにはどうしても思えなかった。 「大丈夫かと言われても『冗談じゃない』としか返答できんな」  デュドネは、無表情で嫌味を返した。 「でも、王家の血を引いている人間が二人しかいないから、どっちかを立てるしかないんだ」  オーバンが苦笑いした。 「王家なんてやめちゃって、別な政権を立てれば?」  デュドネとオーバンが、ぴたりと動きを止めた。 「え?あの?ほら?」ラナは二人の様子に戸惑いながら説明した「イシュハだって、もともとファナティ教会が統治する管轄区の一部だったけど、信じている女神が違うから、独立して別な政権を立てたのよ?」 「ロンハルトは王家の国だ。そんなことはありえない」  デュドネは前を向いたまま、いつも以上に冷たい口調でそう言い放つと、早足で歩き始めた。 「王家と魔法が絶対なんだよ。この国は」  気を使ったのか、オーバンがラナに笑いかけた。 「イシュハは気楽でよかったなあ。魔法使えなくても人間扱いされるもんなあ」  そして、歩き出した。  価値観が、ずいぶん違うんだな……。  ラナは歩きながら、自分の国のことを思い出した。独立したばかりのイシュハは自由国家だ。人種はバラバラ。家柄なんて気にする人間は少ない。管轄区と対抗する意味で、伝統的なものや保守的なことを嫌う傾向がある。  ロンハルトは、かなり保守的な国のようだ。  ラナは、心のどこかに重いものを感じながら歩いていた。 「デュドネ!オーバン!」  道の向こうから、砂埃とともに、馬車が現れた。鮮やかな赤い車体に、金の装飾がほどこされているかなり派手なものだ。 「シンシア様の命令で迎えに来ましたぞ!」  馬車を操っていたのは、白い口髭と銀縁の眼鏡が印象的な老紳士だった。  服装からして、かなり身分が高そうだ。 「そちらの御嬢さんが、シンシア様のいとこですかな?」  老紳士が人懐っこくラナに笑いかけた。ラナもつられて笑った。 「ラナ・クドローです」 「わたくしはカルザイ・メイヨール」  老紳士が帽子を手に持って挨拶した。 「ツヴェターエヴァの専属の職人だよ。何でも作ってくれる」  オーバンが笑った。 「なんでも?」 「服でも鎧でも剣でも家具でも家でも、何でも作ります」 「話はそのくらいにして、早く乗せてくれ」  和やかな雰囲気は、デュドネの無愛想な言葉に消された。  ラナはふてくされた顔で馬車に乗り込んだ。ビロード張りの座席を生まれて初めて見た。柔らかく、手触りもよい。思わずさすってしまう。 「何をしてるんだ」  デュドネがそんなラナを見て呆れた。馬車はゆっくりと動き出し、ツヴェターエヴァの城に向かって走り出した。  ラナは窓の外を眺めながら、祈っていた。  これから会ういとこが、保守的な、気難しい人じゃありませんように……。  ツヴェターエヴァ城は、ラナが住んでいた町より大きい。  入り口から内部へ続く回廊だけで、市場と同じくらいの長さがありそうだ。白い柱が両側に規則正しく並び、赤い絨毯が遠くに小さく見える緑色の扉まで続いている。  天井には……。 「わあ〜!綺麗!」  ラナが天上を見上げながら歓声をあげた。  そこには、空色を背景に、天使の絵が無数に描かれていた。  天使に守られた回廊――。 「何をしている、早く進め」  天使に見とれているラナを、デュドネの冷ややかな声が突いた。 「シンシア様がお待ちです」  案内役の女性がラナに呼びかけ、先に歩き出した。  緊張しながら、ラナはその後を追っていく。  目的の部屋のドアの前にたどり着いたとき、中から、  ビリビリビリビリッ!  という、紙を破る音が聞こえてきた。  案内役がドアを開けると、ちょうど、長いウェーブのかかった赤毛にドレス姿の美しい女性が、手紙らしきものの破片を空中に投げつけているところだった。それも、かなり険しい表情で。 手紙の破片は、突然現れた炎に包まれ、灰となって床に落ちた。  ラナは、このまま中に入っていいものかドアの前で悩んでいたが、デュドネとオーバンは何も気にせずにとっとと中に入っていったので、慌てて後を追った。 「あら?」  中にいた女性がこちらに気付いて、顔をほころばせた。 「ごめんなさいね、変な姿を見られてしまったわ」  笑った顔が、とても美しい。うっすらと光を放って見えるほどだ。  同じ赤毛なのに、自分とはえらい違いだなあ、とラナは思った。 「なにをぼーっとしている」デュドネが顔をしかめた「こちらがシンシア・ツヴェターエヴァ様だ」 「ラナ・クドローです」 「私の唯一の家族ね……」  きれいな笑顔の中に、悲しげな色が浮かんだ。 「両親は亡くなってしまったから」 「そうなんですか」 「しかも間抜けな王が、求婚の手紙をしつこく送ってくる……」  じゃ、今破っていたのは、ロンハルト王の手紙?  ラナは驚いて目を丸くした。この国では王家が絶対ではなかったのか?それほどツヴェターエヴァには権力があるのだろうか?それとも、単に王様の求婚が嫌なのか? 「城の者には、あなたを私と同じように扱うように、と言ってあります」  ラナの驚いた様子など気にせず、シンシアは召使を呼び、城の中を案内するように、と言った。 「まず、服を着替えてもらわなくてはいけません」  無表情の老女中が冷ややかに言った。 「こちらへどうぞ」 「遠慮なくお好きなドレスをお選びになってね。フフフ」 「ドレス?」 「こちらへ」  老女中が、やってきたのとは別なドアを指した。  ラナはぎこちない歩き方で、言われたとおりについていった。もちろんデュドネとオーバンはついてこない。  シンシアの前でも、デュドネは、ラナを『小娘』呼ばわりできるのだろうか?  ラナはそう考えてくすっと笑った。  そして、初めて会ったいとこが、とりあえず怖い人ではないことに安心した。 「ご苦労でしたね、デュドネ、オーバン」  ラナが部屋を出た後、  シンシアが二人に高貴な顔を向けた。さきほどまでの親しみのある笑顔ではない。  身分の高いものが臣下の人間に与える表情だ。 「俺はロンハルトよりあっちのほうが気が楽でしたけどね、あはは」  オーバンは、誰の前でも気楽な態度である。 「ここまで連れてきてこんなことは言いたくありませんが」  デュドネは多少態度を改めたが、言いたいことを隠す気はないようだ。 「あの『小娘』は、どう考えてもこれからの戦いには向いていません。我々が勝つかどうかに国の命運がかかっている」  シンシアは二人を交互に見て、満足げに微笑んだ。  二人とも、他人に遠慮しない。  たとえ相手がロンハルト王だろうと、ツヴェターエヴァの令嬢だろうと。  そして、こんな二人の態度が、シンシアはいたく気に入っている。 「でも、その『小娘』が女神のアメシストに選ばれたのですから」 「これから起こる戦いに耐えられるとは思えないのですが」  デュドネはさらに食ってかかった。 「どうも、恋人探しの旅か何かと勘違いしているようだ」 「まあ」  シンシアが口元に手を当てて、ふふ、と楽しげな息を漏らした。 「あのくらいの年ごろなら、そういう考えを持ってもおかしくありませんね」 「まずは、王子と王女の封印を解かなくては。その封印だって、王の配下の者に取り囲まれているんです。場合によっては強行突破だ。敵の中に突っ込んで二人を救い出すことになる。あんなド素人を連れて戦闘なんかできるとお思いですか?」 「そうは言っても、アメシストとゴールデンベリルが両方なくては、肝心の封印が解けないのですから……それに」  シンシアがデュドネに近づき、艶めいた目つきで顔を覗き見た。 「これからつらい戦いになるのですから、この城にいる間くらいは楽しく過ごしてもらいましょう。ですから、あなた方にも、『小娘』を私と同じように大事に扱っていただかなくては困ります」  デュドネがのけぞって、そのまま数歩後ろに下がった。後ろでオーバンが『クプッ』と笑い声をあげた。  その頃。  ラナは、部屋いっぱいにかけられたドレスに囲まれて、混乱していた。 「どれでも好きなものをお選びになってよろしいと、シンシア様がおっしゃいました」  老女中が、やる気のなさそうな無表情で言った。さっきからラナの全身や顔をなめるように見て、どこかがっかりしたような顔をしていた。シンシアのいとこが来ると聞いて、きっともっと美人を想像していたのだろうなとラナは思い、少し悲しくなった。 「どれでもって言ったって……」  ラナはもう、この部屋を何度も歩き回って、自分が着れそうな『普通の』服を探した。  しかし、ここには、レースやドレープ、そして、引きずるように長い、時代錯誤……いや、昔風……いや、『ロンハルト風』の、動きにくそうなドレスしかない。 「あの~」 「なんですか?」 「ドレスはいらないので、今の服のままではだめなんでしょうか」 「先ほどから気になっていたのですが」  老女中が、怖い顔でラナの前にしゃがみ込んで、ズボンのすそを引っ張った。 「どうしてこんな、汚らしい男の服を着ているのですか?」 「えっ?」  ラナは少し考えて、大変なことに気がついた。 「もしかして、ロンハルトの女性は、ズボンをはかないの?」 「ズボンは男性がはくものです」  当然だろう、と言いたげな尊大な口調で、老女中が答えた。 「でも、イシュハではこれは女性の服なんです。だからこのままでも……」 「いけませんっ!!」老女中はヒステリックに叫んだ「仮にもツヴェターエヴァのご令嬢が、ドレスを着ないどころか、男のズボンですって!?」 「だからイシュハでは女性もズボンが当たり前なんだってば!」  ラナも弱り切って叫びだした。 「いけません!おお、おぞましい……」  老女中は、大げさに震えあがり、大げさな身振りで祈り始めた。  ラナはその様子に驚いた。  そこまでするほどおかしいわけ!?たかがズボンが? 「女神アニタ様、この哀れなお嬢様をお救いください」 「ちょっと!何よそれ!?」 「何の騒ぎかね」  そこに入ってきたのは、さきほど馬車で迎えに来た老紳士、カルザイ・メイヨールだった。  ラナはあわててカーテンの裏に隠れた。どうして女性が着替えているところに入ってくるのだ?この老人は? 「新しいドレスを届けに来ただけですよ」  カルザイは、ラナに向かって、手に持った空色のドレスを掲げて見せた。 「ちょうどいいところに来ましたわ!」  老女中が、飛び上がるようにカルザイに近づくと、ドレスをひったくった。 「これを着ていただきます!」 「だからそんな動きにくいのいやだってば!!」 「いけません。聞いてくださいよカルザイ。さっきからこのお嬢様は『ズボンがはきたい』などと血迷いごとを言って聞かないのです!」 「だからイシュハ人は女性もズボンなんだっつの!」 「ほほう」  カルザイが、手をあごひげにあてて、興味深そうな顔をした。 「じゃ、わたくしが一つ、作りましょうか」 「カルザイ!?」 「ほんと?」  老女中が怖い顔で、ラナが歓喜の顔で叫んだ。 「前から女性もののスーツに興味がありましてね。南方ではそういうのが流行っているのだと」 「いけません!いけませんよ!仮にもツヴェターエヴァのご令嬢が……」 「じゃ、わたくしがシンシア様に聞いてまいりましょう」  カルザイがドアの外に消えた。そして、すぐに戻ってきた。 「シンシア様は『私の分も作って頂戴』とおっしゃっているよ」  その答えを聞いた途端、老女中は『ああっ』と、声にならない声をのどからもらし、床に座り込んだ。ラナはカーテンの陰で喜んでいた。  シンシアは、どうやら、新しいものが理解できる女性のようだ。  そして、このロンハルトという国は、想像以上に古臭い国のようだ……。  結局ラナはもとの服を着なおして、シンシアの部屋に戻った。するとそこには、黒い帽子をかぶった無精ひげの男がいて、テーブルの上でトランプを並べていた。シンシアが興味深そうにカードを覗き込んでいる。 「あの~」 「あら」  シンシアがラナに気が付いて微笑んだ。 「そちらが、新しいご令嬢かな?」  男がカードを振って、口元だけにやっと笑った。 「私はラナ。ラナ・クドロー」 「俺はルッツ・ダマー」  カードの束をラナの前に差し出した。 「一枚取って」  ラナは言われたとおり、一番上のカードを取った。  ダイヤの7。 「じゃ、戻して」  山の上に戻した。ルッツはテーブルの上でカードを一分ほどシャッフルして、その中から、てきとうに一枚取り出した。 「さっきとったのは、これだろう?」  ルッツが差し出したのは、もちろん、ダイヤの7だ。 「手品?魔法?」 「残念ながら俺はドゥロソ人でね。魔法は使えないんだ。そのかわり……」  ルッツは両手を頭の上にあげると、すっと前に戻した。まるで空中からつかんだかのように、そこには短銃があった。両手に、2丁。 「必要になったら、いつでも貸すよ?」  楽しそうなルッツに、ラナは何と言っていいかわからず、あいまいな笑顔を返した。 「わたくしとルッツはここで遊んでいますから、ラナは城の中を回っては?」  シンシアがそう言ってほほ笑んだ。ラナは外に出ながら、  あの二人、どういう関係なんだろう?  と、怪しんでいた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加