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第三章
丘からロンハルト側に降りていく道は、不思議に満ちていた。
手のひらと同じくらい小さい、背中に羽の生えた人が、蝶や蜂のように飛び回っている。淡く光る丸い物体が、こちらに気付いて飛んでくるが、ことごとくデュドネとオーバンが弾き飛ばす。
「きゃっ!」
ラナもさっきから丸い物体を杖でたたき返している……が、
「宝石で叩くな!傷がついたらどうする!?」
デュドネが怒り出した。
「だって飛んでくるんだからしょうがないでしょ!」
「魔法を使え魔法を。何のために女神のアメシストを渡したと思ってるんだ?」
「魔法ってどうやって?」
「杖を相手に向けて、念じろ」
ラナは言われたとおりにやってみた。
すると、杖の先のアメシストから光の筋が飛び、丸い物体に向かって飛んで行った。
丸い物体は、光に包まれ、消えた。
「えっ?何今の!?すごーい!!」
「それくらいで喜ぶな。ロンハルトなら3歳児でもできることだ」
デュドネは冷たく言い放つと、森の中をさっさと歩いていく。
「もう少しで、アンセルム様が幽閉されている塔に着く」
「アンセルム……」
「ロンハルト王の弟で、大魔道士だよ」
オーバンが小声で耳打ちした。ラナは荒野で聞いた話を思い出した。ひどい王様に苦しめられている国民がアンセルムに助けを求め、そのアンセルムは塔に幽閉された……。
「大魔道士って何?」
「最高の魔道士ということだ。数百年に一人しか現れない強い魔力の持ち主なんだが……」
デュドネはそこで言葉を切った。
ラナはその続きが気になったので、オーバンに聞いてみた。
「会ってみればわかるよ」
オーバンもそれしか教えてくれなかった。
「何をしている!早く来い!」
デュドネが叫んでいるのが聞こえた。
ラナはナイフを拾い、荷物の中に入れると、慌てて森の中を走って行った。
「ほんとに、ここにいるの?」
ラナは、たどり着いた塔を見上げて、呆然としていた。
赤黒い塔には、あちこちにひびが入り、外壁の一部は落ちて、大きな穴が開いている。人が住んでいるとは思えない。ましてや、『幽閉』できる建物にも見えない。
「王様の弟なんでしょ?大魔道士様なんでしょ?」
「王にとっては、自分の地位を狙う敵のようなものだ」
「しかも、自分は魔道士になるほど魔力なかったんだもんね」
「そうなの?」
意外だった。魔法の国の王なら、強い魔力を持っていないと務まらない気がするが……。
「魔道士は魔力の強いものがなる。王や大臣には、血筋だけ高い地位の馬鹿がなる」
デュドネが完全にバカにした口調でつぶやいた。
「前から思ってたけど、あなたって嫌味ね」
「本当のことを言って何が悪い」
ラナは呆れた。こんな性格では、自由主義のイシュハでも、周りは敵だらけになりそうだ。しかも、デュドネは身分制度が厳しいロンハルトの人間のはずである。
今までどうやって生きてきたんだろう……?
「デュドネ~」オーバンが弱った声を上げた「偉い方の前に出るんだから、悪口は控えたほうがいいよ」
ラナはオーバンとデュドネを交互に見た。どうやらこの二人、自分に足りないものをお互いで補っているらしい。魔力はあるが気遣いがないデュドネ、優しいが魔力のないオーバン。
「言われなくてもわかっているさ」
デュドネは入口の門番に金を渡した。門番は無表情で、錆びて赤くなった鉄の扉を両手で押した。
扉はゆっくりと開き、ギギギ、という耳障りな音を立てる。重そうだ。
通路は真っ暗で、黒い闇のはるか奥に、松明のような明かりがぽつんと見えるのみだ。
「よく、ゴホッ、来てくれたねっ、ヘークシュン!!」
塔の奥、薄暗くかび臭い部屋。
ラナたちを出迎えたのは、ベッドでくしゃみをしながら鼻をかんでいる、長髪の男だった。
きれいなブロンドで、顔だちも端正だ。ただし、鼻をかみすぎて鼻先が赤く、熱があるのか、ほおも赤く染まっていて、お世辞にもかっこいいとは言えない。
「き、グスッ、君が、女神に選ばれた、ゲホッ、アメシストの持ち主だね?ブッ」
アンセルム……王の弟で、大魔道士である……が、親しげにラナに話しかけた。
「はい」
ラナは、目の前の『大魔道士様』を見ながら、困った顔でうなずいた。
「今この国は、ズルズル」アンセルムが鼻をすすりながら話し始めた「情勢が不安定なんだ。ロンハルト王は残酷で、少しでも気に入らないことがあるとすぐ人を死刑にする。毎日、城の外に吊るされている死体が増えているそうだ。友好関係を保っていた隣の国も攻め滅ぼしてしまうし……人の暮らしも悪くなる一方だ。このままではいけな……ヘークション!!」
アンセルムは上体を大きくそらせてくしゃみをした。鼻から何かが飛んだ。
「だからね、ズルッ」鼻がたれたままで、ラナのほうを向いた「シンシア・ツヴェターエヴァと協力して、魔力のある宝石を王に渡さないようにしたい」
「ロンハルト王より先に、宝石を手に入れろということですか?」
「そう!頼むよ!」
アンセルムが身を乗り出してきて、ラナの手を両手で握った。何かをお願いしたいポーズだが、ラナは目の前の鼻水だらけの顔に驚いて、硬直してしまった。
「この国と僕の未来が、君にかかってるんだからね!」
ラナはどうしていいかわからずデュドネの方を向くと、デュドネは白けた顔で壁の隅を横目で見ていた。
オーバンは、下を向いて小刻みに震えていた。笑うのを必死でこらえているようだ。
ラナは何も言うことができず、黙って礼をし、ゆっくりと鼻水のついた手を離して、走って部屋から出た。手を洗う場所を探すためだった。
「あんな人が大魔道士で大丈夫なの!?」
外に出て、塔が見えないところまで歩いたところで、ラナが叫んだ。
今会ったばかりの『大魔道士様』は、あまりにもたよりない男で、王の代わりになるとは、ラナにはどうしても思えなかった。
「大丈夫かと言われても『冗談じゃない』としか返答できんな」
デュドネは、無表情で嫌味を返した。
「でも、王家の血を引いている人間が二人しかいないから、どっちかを立てるしかないんだ」
オーバンが苦笑いした。
「王家なんてやめちゃって、別な政権を立てれば?」
デュドネとオーバンが、ぴたりと動きを止めた。
「え?あの?ほら?」ラナは二人の様子に戸惑いながら説明した「イシュハだって、もともとファナティ教会が統治する管轄区の一部だったけど、信じている女神が違うから、独立して別な政権を立てたのよ?」
「ロンハルトは王家の国だ。そんなことはありえない」
デュドネは前を向いたまま、いつも以上に冷たい口調でそう言い放つと、早足で歩き始めた。
「王家と魔法が絶対なんだよ。この国は」
気を使ったのか、オーバンがラナに笑いかけた。
「イシュハは気楽でよかったなあ。魔法使えなくても人間扱いされるもんなあ」
そして、歩き出した。
価値観が、ずいぶん違うんだな……。
ラナは歩きながら、自分の国のことを思い出した。独立したばかりのイシュハは自由国家だ。人種はバラバラ。家柄なんて気にする人間は少ない。管轄区と対抗する意味で、伝統的なものや保守的なことを嫌う傾向がある。
ロンハルトは、かなり保守的な国のようだ。
ラナは、心のどこかに重いものを感じながら歩いていた。
「デュドネ!オーバン!」
道の向こうから、砂埃とともに、馬車が現れた。鮮やかな赤い車体に、金の装飾がほどこされているかなり派手なものだ。
「シンシア様の命令で迎えに来ましたぞ!」
馬車を操っていたのは、白い口髭と銀縁の眼鏡が印象的な老紳士だった。
服装からして、かなり身分が高そうだ。
「そちらの御嬢さんが、シンシア様のいとこですかな?」
老紳士が人懐っこくラナに笑いかけた。ラナもつられて笑った。
「ラナ・クドローです」
「わたくしはカルザイ・メイヨール」
老紳士が帽子を手に持って挨拶した。
「ツヴェターエヴァの専属の職人だよ。何でも作ってくれる」
オーバンが笑った。
「なんでも?」
「服でも鎧でも剣でも家具でも家でも、何でも作ります」
「話はそのくらいにして、早く乗せてくれ」
和やかな雰囲気は、デュドネの無愛想な言葉に消された。
ラナはふてくされた顔で馬車に乗り込んだ。ビロード張りの座席を生まれて初めて見た。柔らかく、手触りもよい。思わずさすってしまう。
「何をしてるんだ」
デュドネがそんなラナを見て呆れた。馬車はゆっくりと動き出し、ツヴェターエヴァの城に向かって走り出した。
ラナは窓の外を眺めながら、祈っていた。
これから会ういとこが、保守的な、気難しい人じゃありませんように……。
ツヴェターエヴァ城は、ラナが住んでいた町より大きい。
入り口から内部へ続く回廊だけで、市場と同じくらいの長さがありそうだ。白い柱が両側に規則正しく並び、赤い絨毯が遠くに小さく見える緑色の扉まで続いている。
天井には……。
「わあ〜!綺麗!」
ラナが天上を見上げながら歓声をあげた。
そこには、空色を背景に、天使の絵が無数に描かれていた。
天使に守られた回廊――。
「何をしている、早く進め」
天使に見とれているラナを、デュドネの冷ややかな声が突いた。
「シンシア様がお待ちです」
案内役の女性がラナに呼びかけ、先に歩き出した。
緊張しながら、ラナはその後を追っていく。
目的の部屋のドアの前にたどり着いたとき、中から、
ビリビリビリビリッ!
という、紙を破る音が聞こえてきた。
案内役がドアを開けると、ちょうど、長いウェーブのかかった赤毛にドレス姿の美しい女性が、手紙らしきものの破片を空中に投げつけているところだった。それも、かなり険しい表情で。
手紙の破片は、突然現れた炎に包まれ、灰となって床に落ちた。
ラナは、このまま中に入っていいものかドアの前で悩んでいたが、デュドネとオーバンは何も気にせずにとっとと中に入っていったので、慌てて後を追った。
「あら?」
中にいた女性がこちらに気付いて、顔をほころばせた。
「ごめんなさいね、変な姿を見られてしまったわ」
笑った顔が、とても美しい。うっすらと光を放って見えるほどだ。
同じ赤毛なのに、自分とはえらい違いだなあ、とラナは思った。
「なにをぼーっとしている」デュドネが顔をしかめた「こちらがシンシア・ツヴェターエヴァ様だ」
「ラナ・クドローです」
「私の唯一の家族ね……」
きれいな笑顔の中に、悲しげな色が浮かんだ。
「両親は亡くなってしまったから」
「そうなんですか」
「しかも間抜けな王が、求婚の手紙をしつこく送ってくる……」
じゃ、今破っていたのは、ロンハルト王の手紙?
ラナは驚いて目を丸くした。この国では王家が絶対ではなかったのか?それほどツヴェターエヴァには権力があるのだろうか?それとも、単に王様の求婚が嫌なのか?
「城の者には、あなたを私と同じように扱うように、と言ってあります」
ラナの驚いた様子など気にせず、シンシアは召使を呼び、城の中を案内するように、と言った。
「まず、服を着替えてもらわなくてはいけません」
無表情の老女中が冷ややかに言った。
「こちらへどうぞ」
「遠慮なくお好きなドレスをお選びになってね。フフフ」
「ドレス?」
「こちらへ」
老女中が、やってきたのとは別なドアを指した。
ラナはぎこちない歩き方で、言われたとおりについていった。もちろんデュドネとオーバンはついてこない。
シンシアの前でも、デュドネは、ラナを『小娘』呼ばわりできるのだろうか?
ラナはそう考えてくすっと笑った。
そして、初めて会ったいとこが、とりあえず怖い人ではないことに安心した。
「ご苦労でしたね、デュドネ、オーバン」
ラナが部屋を出た後、
シンシアが二人に高貴な顔を向けた。さきほどまでの親しみのある笑顔ではない。
身分の高いものが臣下の人間に与える表情だ。
「俺はロンハルトよりあっちのほうが気が楽でしたけどね、あはは」
オーバンは、誰の前でも気楽な態度である。
「ここまで連れてきてこんなことは言いたくありませんが」
デュドネは多少態度を改めたが、言いたいことを隠す気はないようだ。
「あの『小娘』は、どう考えてもこれからの戦いには向いていません。我々が勝つかどうかに国の命運がかかっている」
シンシアは二人を交互に見て、満足げに微笑んだ。
二人とも、他人に遠慮しない。
たとえ相手がロンハルト王だろうと、ツヴェターエヴァの令嬢だろうと。
そして、こんな二人の態度が、シンシアはいたく気に入っている。
「でも、その『小娘』が女神のアメシストに選ばれたのですから」
「これから起こる戦いに耐えられるとは思えないのですが」
デュドネはさらに食ってかかった。
「どうも、恋人探しの旅か何かと勘違いしているようだ」
「まあ」
シンシアが口元に手を当てて、ふふ、と楽しげな息を漏らした。
「あのくらいの年ごろなら、そういう考えを持ってもおかしくありませんね」
「まずは、王子と王女の封印を解かなくては。その封印だって、王の配下の者に取り囲まれているんです。場合によっては強行突破だ。敵の中に突っ込んで二人を救い出すことになる。あんなド素人を連れて戦闘なんかできるとお思いですか?」
「そうは言っても、アメシストとゴールデンベリルが両方なくては、肝心の封印が解けないのですから……それに」
シンシアがデュドネに近づき、艶めいた目つきで顔を覗き見た。
「これからつらい戦いになるのですから、この城にいる間くらいは楽しく過ごしてもらいましょう。ですから、あなた方にも、『小娘』を私と同じように大事に扱っていただかなくては困ります」
デュドネがのけぞって、そのまま数歩後ろに下がった。後ろでオーバンが『クプッ』と笑い声をあげた。
その頃。
ラナは、部屋いっぱいにかけられたドレスに囲まれて、混乱していた。
「どれでも好きなものをお選びになってよろしいと、シンシア様がおっしゃいました」
老女中が、やる気のなさそうな無表情で言った。さっきからラナの全身や顔をなめるように見て、どこかがっかりしたような顔をしていた。シンシアのいとこが来ると聞いて、きっともっと美人を想像していたのだろうなとラナは思い、少し悲しくなった。
「どれでもって言ったって……」
ラナはもう、この部屋を何度も歩き回って、自分が着れそうな『普通の』服を探した。
しかし、ここには、レースやドレープ、そして、引きずるように長い、時代錯誤……いや、昔風……いや、『ロンハルト風』の、動きにくそうなドレスしかない。
「あの~」
「なんですか?」
「ドレスはいらないので、今の服のままではだめなんでしょうか」
「先ほどから気になっていたのですが」
老女中が、怖い顔でラナの前にしゃがみ込んで、ズボンのすそを引っ張った。
「どうしてこんな、汚らしい男の服を着ているのですか?」
「えっ?」
ラナは少し考えて、大変なことに気がついた。
「もしかして、ロンハルトの女性は、ズボンをはかないの?」
「ズボンは男性がはくものです」
当然だろう、と言いたげな尊大な口調で、老女中が答えた。
「でも、イシュハではこれは女性の服なんです。だからこのままでも……」
「いけませんっ!!」老女中はヒステリックに叫んだ「仮にもツヴェターエヴァのご令嬢が、ドレスを着ないどころか、男のズボンですって!?」
「だからイシュハでは女性もズボンが当たり前なんだってば!」
ラナも弱り切って叫びだした。
「いけません!おお、おぞましい……」
老女中は、大げさに震えあがり、大げさな身振りで祈り始めた。
ラナはその様子に驚いた。
そこまでするほどおかしいわけ!?たかがズボンが?
「女神アニタ様、この哀れなお嬢様をお救いください」
「ちょっと!何よそれ!?」
「何の騒ぎかね」
そこに入ってきたのは、さきほど馬車で迎えに来た老紳士、カルザイ・メイヨールだった。
ラナはあわててカーテンの裏に隠れた。どうして女性が着替えているところに入ってくるのだ?この老人は?
「新しいドレスを届けに来ただけですよ」
カルザイは、ラナに向かって、手に持った空色のドレスを掲げて見せた。
「ちょうどいいところに来ましたわ!」
老女中が、飛び上がるようにカルザイに近づくと、ドレスをひったくった。
「これを着ていただきます!」
「だからそんな動きにくいのいやだってば!!」
「いけません。聞いてくださいよカルザイ。さっきからこのお嬢様は『ズボンがはきたい』などと血迷いごとを言って聞かないのです!」
「だからイシュハ人は女性もズボンなんだっつの!」
「ほほう」
カルザイが、手をあごひげにあてて、興味深そうな顔をした。
「じゃ、わたくしが一つ、作りましょうか」
「カルザイ!?」
「ほんと?」
老女中が怖い顔で、ラナが歓喜の顔で叫んだ。
「前から女性もののスーツに興味がありましてね。南方ではそういうのが流行っているのだと」
「いけません!いけませんよ!仮にもツヴェターエヴァのご令嬢が……」
「じゃ、わたくしがシンシア様に聞いてまいりましょう」
カルザイがドアの外に消えた。そして、すぐに戻ってきた。
「シンシア様は『私の分も作って頂戴』とおっしゃっているよ」
その答えを聞いた途端、老女中は『ああっ』と、声にならない声をのどからもらし、床に座り込んだ。ラナはカーテンの陰で喜んでいた。
シンシアは、どうやら、新しいものが理解できる女性のようだ。
そして、このロンハルトという国は、想像以上に古臭い国のようだ……。
結局ラナはもとの服を着なおして、シンシアの部屋に戻った。するとそこには、黒い帽子をかぶった無精ひげの男がいて、テーブルの上でトランプを並べていた。シンシアが興味深そうにカードを覗き込んでいる。
「あの~」
「あら」
シンシアがラナに気が付いて微笑んだ。
「そちらが、新しいご令嬢かな?」
男がカードを振って、口元だけにやっと笑った。
「私はラナ。ラナ・クドロー」
「俺はルッツ・ダマー」
カードの束をラナの前に差し出した。
「一枚取って」
ラナは言われたとおり、一番上のカードを取った。
ダイヤの7。
「じゃ、戻して」
山の上に戻した。ルッツはテーブルの上でカードを一分ほどシャッフルして、その中から、てきとうに一枚取り出した。
「さっきとったのは、これだろう?」
ルッツが差し出したのは、もちろん、ダイヤの7だ。
「手品?魔法?」
「残念ながら俺はドゥロソ人でね。魔法は使えないんだ。そのかわり……」
ルッツは両手を頭の上にあげると、すっと前に戻した。まるで空中からつかんだかのように、そこには短銃があった。両手に、2丁。
「必要になったら、いつでも貸すよ?」
楽しそうなルッツに、ラナは何と言っていいかわからず、あいまいな笑顔を返した。
「わたくしとルッツはここで遊んでいますから、ラナは城の中を回っては?」
シンシアがそう言ってほほ笑んだ。ラナは外に出ながら、
あの二人、どういう関係なんだろう?
と、怪しんでいた。
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