ある本屋

1/1
前へ
/1ページ
次へ
大切な本を持ってきてください。 それだけ書かれたポスターを、 僕はぼんやり眺めていた。 日時と場所が下の方に小さく書いてあって、 家から15分くらいの場所に、目立った建物はなかったはずだ。 「こんにちは」 玄関の引き戸を開けると、中はオレンジの光とコーヒーの匂いでいっぱいだ。 「こんにちは、来てくれてありがとう。」 そう声をかけてきた麻貴さんは、お姉さんなのかお兄さんなのかわからない風貌だ。 「どんな本を持ってきましたか?」 ゆっくりとやかんのお湯でコーヒーを淹れながら、聞いてくれた。 「絵本を、小さい頃から大事にしている絵本を持ってきました。」 「そっか。ありがとう。どんなところが好き?」 麻貴さんは、絵本を開くことはなく ただただ僕が話す絵本の話を聞いて、嬉しそうにしている。 「本を読み始める時と、読み終わったときどちらが幸せだと思う?」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加