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私と妹は本当に良く似た感性を持っていたと思う。特に人生観という点について。それに初めて気づいたのは、一緒にテレビドラマを観ていた時だった。中学生くらいの頃だったと思う。大人向けのそのドラマに私たちは幾分か背伸びをしながらどっぷり浸かっていて、良く2人でゴッコ遊びをしたものだった。私も妹も初めはそれなりに楽しんでいたのだけれど、だんだん何処で物足りなさを感じるようになった。
「でもやっぱりドラマは観ているのが1番なんだよなあ。」
ふと言った私の言葉に姉は強く同意した。
「分かる。結局物語に入り込むにはさ、何処か別の場所から眺めてる方が良いんだよね。」
「ねぇ例えばさ、私と美姫ちゃんが入れ替わってそれぞれの役を演じてみるのはどうかな?」
「ドラマの役を替えるってこと?」
「ううん。そうじゃなくて。本当の私たちの話。私が美姫ちゃんになって、美姫ちゃんが私になるってこと。そうすれば私たちお互いが主人公のドラマを観ていることにならない?」
姉の提案は、つまり私が姉になったつもりで自分の人生を生きて、代わりに姉は私になったつもりで彼女の人生を生きるということだった。それは結局ただ互いにそう思い込むというだけのお遊びに過ぎないと私は思ったが、一方で面白い試みのようにも感じた。
「まあまずはやってみましょう。」
そういうことで、私と姉はそれぞれ中身が入れ替わったという設定を秘密裏に共有し、まずは翌日1日をその設定で生活してみることにした。
朝、姉はいつも私がそうしていたように、携帯電話のスヌーズを2度ほど鳴らしてから起きてきた。姉の演技は完璧だった。まるであの姉が本当の私で、私は自分が主人公のドラマを観ているかのように感じた。
姉があまりに真剣な姿勢だったので、私もちゃんと姉の中身を演じなければと思った。器用な姉とは違って私は直ぐに私の中に姉をインストールすることが出来ない。何しろ鏡に映る自分は依然として妹の私なのだ。母にとっても、学校の友人にとっても、私は変わらずに妹の私でありながら、私自身は姉になったつもりで生活をする。これは想像するだけで容易なことではなかったが、姉と約束した以上ベストは尽くさなければならないと思った。
「美姫はソースじゃなかった?」
目玉焼きに醤油をかけてた私に母が言った。
「うん、でも今日は醤油にする。」
「あらそう。」
私は姉の普段の行動を思い出しながら、出来ることから真似をしてみることにした。いつもの通学路の風景も姉ならどう見ているのだろうと想像しながら歩くと新鮮に感じた。
「ねぇ、昨日の番組観た?超ドキドキしたよね。」
クラスの仲の良い子が話しかけてくる。彼女がいつも観ているくだらない恋愛番組のことだ。普段の私なら調子良く相手に合わせて会話をしていただろうけれど、姉ならどうするだろうか。私は少しだけ考えてから、昨夜は姉と話をしていて番組は観れなかったのだと正直に言った。
「そうなんだ...。まあそういう時もあるよね!絶対今日見逃し配信みといて!」
私は曖昧に頷いてみせた。姉が良く見せる仕草だった。きっと姉はそうして見せて絶対にその恋愛番組を見ることはないだろう。私は少しだけ姉に近づけたような気がした。
図書館での自習時間の時、窓の下の運動場で姉の走る姿を見つけた。姉は運動も得意だった。陽の当たる運動場の中で、姉は圧倒的に輝いていた。私は姉を目で追いながら、優越感に浸るのを感じた。それはまるで自分自身が颯爽と走り、注目されているような、そんな感覚だった。
私は少し感動していた。私は姉で、そして姉である私の姿を外から眺めることが出来る。それはまさに自分が主人公のドラマを観ているような感じがした。私たちが求めていたのはきっとこういうことだったのだと思った。
「どうだった?」
その日の夜、姉が私の勉強机の隣に座って前のめりに尋ねた。
「うん、思ったより楽しかった。上手く出来た自信はないけど、ベストは尽くしたと思う。」
その答えに姉は鼻を膨らませて満足気な表情で頷いて見せた。それは妹の私のする仕草だった。
「もう。お姉ちゃんは完璧みたいだね。」
「そうなんだよね。私も気に入っちゃって。」
姉はその日の出来事を事細かに語った。私は姉の話を聞きながら彼女の1日を追体験するようだった。それは他のどんなドラマよりも面白いと思った。
「でも、お姉ちゃんはそれで良いのかな。私の人生って面白い?お姉ちゃんほど美人じゃないし、器用でもないし、運動も得意じゃない。」
姉は顎に手を当てて少しだけ考えたフリをした。しかし答えは最初から決まっているみたいだった。」
「面白いよ。美姫をやるのは。私なんかよりずっと自由でいられる気がするんだよね。だからさ。もうちょっと続けてみても良いよね。」
最後に姉が言った。私は即座に頷く。私はもうその抗い難い魅惑に引き込まれてしまっていたのだった。
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