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いっそ殺して1
「そう言われても……ねぇ」
学と竜牙の話にマンションの管理人が重い腰を上げると渋々鍵を探す。
「この中に2人監禁されてるんだって。いいから鍵渡せよ、早く!」
「408号室はこれだったかなぁ」
「貸せっ」
「ち、ちょっとあんたら。おいっ!」
「直ぐに返します」
もたもたしている管理人から竜牙が鍵を奪い取ると学が会釈をしてエントランスのエレベーターに向かった。
なかなか降りて来ないエレベーターを待てず、2人は非常階段を駆け上がり嘉人の部屋の前に辿りつくと鍵穴にキーを差し込んだ。
「類!」
「悟!」
「なんだてめぇらっ」
竜牙と学が乗り込み、類と悟の姿を見て2人の中で何かが切れた。
「てめぇら……ぶっ殺す!」
殴り合いの喧嘩が始まると悟は気を取られている嘉人の持っている注射器を払い除けた。注射器は嘉人の手から落ちると絨毯に転がった。
「類くん、危ないっ、こっちへ」
「悟さんっ」
類は悟に抱きついた。悟はそんな類をぎゅっと抱きしめ返す。
傷だらけの悟を見て類は泣きじゃくる。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい。俺のせいで悟さんにこんな……」
「巻き込んだのは僕の方だ。ごめんね?ごめんね、類くん」
「悟、こっちへ来るんだっ」
嘉人にタックルされ、2人は転がった。嘉人は悟の首に腕を巻き付け引き寄せる。
その手にはバタフライナイフが不気味に光っていた。
「悟さんっ!」
「類、こっちへ来い!」
類を竜牙が抱きとめる。
「悟!」
学は最後の男を殴り倒し、肩で息をしながら悟と嘉人の前に立った。
「……悟を離せ」
「嫌だと言ったら?」
学と義人は睨み合う。
「悟さん!」
類が声を出すと学に任せようと言うように竜牙がその口を掌で塞いだ。
「嘉人がそうしたいのならいっそ殺して」
悟はそう言って嘉人のナイフを自らの手で自分の首元に寄せる。
「悟、止めるんだ」
「いいんだ、学。このまま嘉人にウリさせられて誰かに見受けされ一生飼い殺しにされるくらいならいっそ死んだ方がマシだ。……さぁ殺って。殺ってくれ」
「お、おい。止めろ」
逆に驚き刃先を離そうとする嘉人の手ごとナイフを握り込んだ悟は更に喉元に刃先をくいこませた。その首にはうっすらと血が滲む。
「悟!」
「……っきしょう。止めだっ」
嘉人は逆に悟を突き飛ばし、よろけた悟を学が抱きとめた。
「この……馬鹿」
言葉とは裏腹に学は全裸の悟の体に着ていたコートを脱いで掛けた。悟は少し頬を赤らめ目を伏せる。
そんな様子の2人を嘉人は見逃さなかった。
「あーもうめんどくせぇ。そんなヤバい奴……てめぇにくれてやる!」
嘉人は髪を掻き毟りその場にドカッと座った。
「嘉人……」
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