112人が本棚に入れています
本棚に追加
回想 出会い2
その頃、学は年齢のわりに背が高くスーツを着ればそれなりの年齢に見える事もあり、年齢を誤魔化して今のホストクラブ【雅ーMIYABIー】で働き慣れ始めた頃で毎日のようにキャッチの為に夕刻になると割引チケットを片手に街角に立っていた。
そこでよく見かける美少年ーーー
いつも違う男……それも年齢のだいぶ違う男とよく歩いており、学はその目を惹く美しい少年の事がいつの日からか気になるようになっていた。
その少年は笑いながらもいつも何処か寂しい目をしていた。
この日も新規の客をモノにする為に学はキャッチに表に出た。すると何やら路地裏で揉めている声が耳に入ってきた。
【面倒事は御免だ。巻き込まれる前に退散するか】
そう思いつつ騒ぎの方を興味本位でちらりと見た。すると3人の男達に何か因縁を付けられているのはあの謎の美少年。
どう見ても尋常ではない空気に学は何だか放っておけなくなり近づいた。
「いいじゃん、なっ?減るもんじゃねぇだろ?」
「話が違う。僕は相手が1人だって聞いてたのにこんな……。3人だなんて聞いてない」
【そういう事か】
「ケチんなよ。1人も3人もブチ込まれる数同じなら一緒だろ?淫乱のクソガキのくせにゴチャゴチャ言ってんじゃねーよ」
「は、離して。……帰る」
「いい思いさせてやるからよぉ、な?場所変えてさぁ」
「な……何す……、やだっ」
腕を掴まれ、か細いその体は今にも白い大型バンに乗せられそうになっている。
もう見ちゃいられないとばかりに学は無理強いする男の肩を掴んだ。
「お兄さん方、離してやりなよ」
「あぁ?誰だ、てめぇ」
悟は隙をみて相手の手を振りほどくと学の背中に隠れた。
「あー……名乗るほどの者ではございません」
男達は学を上から下まで眺めると「なんだ、てめぇただのホストかよ」と鼻で笑った。
「てめぇに用はねぇんだよ、女のケツでも追いかけ回してな?」
男達はあはははと馬鹿にしたように笑った。
「そう言うお宅らはみっともなく男のケツ……追っかけてるのに?」
そう言うとニヤリと学も笑う。
「何ぃ?てめぇ、やんのかよ」
「やってもいいですけど顔は止めて下さいよ?一応これでも"ホスト"なんで」
「て、てめぇ。ちぃとばかし男前だからって格好つけてんじゃねぇ。ボッコボコにしてその顔潰して仕事出来なくしてやってもいいんだぜ?」
そう言うと男が殴りかかる。学は運動神経抜群の瞬発力でそれをかわすと相手の腹にボディブローを食らわせた。
「ぐぁっ!」
男が飲食店の生ゴミ専用ポリバケツにぶつかり生ゴミもろとも吹っ飛んだ。
あまりの凄さに悟はゴクンと唾を飲む。
学は残り2人を「次はお前らか?」とでも言うように睨みつけた。
「お、覚えとけよっ」と2人は生ゴミに埋もれる男を「くっせー」と言いながら引き摺ってバンに乗せ、乗り込み逃げていった。学は乱れたネクタイをキュっと絞め直す。
「ふん。口程にもない」
「あ……あの。ありがとうござ……」
「お前ももうそんな体切り売りするようなマネ、止めておけ」
「え……?」
「ほんとはやりたくないって顔してるぞ?」
学の言葉に悟は思わず下を向く。
「じゃあな」
悟は踵を翻して歩いて行く学の背中に思い切って声をかけた。
「あのっ……。僕は悟です。水上 悟。あなたは?あなたの名前は?」
いきなりフルネームで自己紹介してくる悟に学は少し驚いたが「俺か?俺の名前は学。香坂 学だ。またな、悟」と右手を上げて去って行った。
「香坂 学……」
悟は学の後ろ姿に頭を下げると見えなくなるまでいつまでも見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!