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回想 出会い3
「で、何もせずに帰ってきたわけだ?」
「う、うん。ごめんなさい」
嘉人はファミレスの座席に凭れ軽く舌打ちをした。そして親指の爪を噛みながら少し考えるとこう言った。
「あのさぁ、悟。もっと割のいいやつ……やらないか?」
「……え?」
「ほら、ちょっと人と違う趣味の奴って居るだろ?そいつらの相手をしてやるんだよ」
「違う趣味って?」
"人と違う"というところで悟は何だか不安になる。
「やる事は今までのとそう変わりはないよ。ただ"実入り"はいい」
「……」
【またお金……か】
嘉人の事は凄く好きだけどお金の事となると酷く執着した。幼い頃に親に捨てられて施設に入りお金に苦労していたとは聞いてはいるけど……
黙り込んで下を向きあまり気の進まなそうな悟の隣に座り直した嘉人はそのか細い体を優しく抱きしめる。
「これは"悟の為"なんだ。金がいい分、少し頑張れば今までみたいに数こなさなくてもいいんだから」
確かにここのところ立て続けに相手をさせられていて悟の体はかなり疲労していた。
「たくさん……しなくていいの?」
「そうだ。どうだ?やってみないか?」
考える悟に更に耳元で嘉人は囁く。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
"その分俺もお前と一緒に居られるし……な?"
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
そう言って悟の頬に軽くキスをする。悟に嘉人の"魔法"が掛けられた。
【嘉人と一緒に居られるのか……】
今の悟にとって嘉人は"絶対的な存在"。最近は嘉人との交わりよりも客との体の交わりの方が多くなっていたのは確かだった。
もしこの仕事が上手くいけばもっと嘉人と一緒に居られる?ーーー
「嘉人。僕それ……やってみる」
「そうか、やるか?」
「うん」
「よしよし、偉いぞー」
嘉人は悟の頭をいつものようにワシャワシャと撫でた。嘉人に褒められて悟もとても嬉しかった。
「じゃあ早速話つけてくるからな?ここで待ってな」
「うん」
嘉人は携帯を取り出し「あー俺。いい子見つかったよ」と話ながら席を立った。
【大丈夫。いつものように少し我慢していればいいだけ。嘉人の持ってくる話だからきっと大丈夫。心配……ない】
そう悟は己に言い聞かせながら嘉人が頼んでくれた温かいココアを口にした。
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