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再会1
水上 悟(みずかみ さとる)
あいつの愛し方はどうしてこうも不器用なのか……
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「類、早く行こうぜ?時間遅れてる」
「今行く」
類(るい)はあれからあの時、講義中に話しかけてくれた林と仲良くなり大学のとあるお遊びサークルに入っていた。
今日はそのサークルの飲み会の為に林と夜の繁華街を飲み会会場となる居酒屋まで急ぎ足で歩いていた。
【竜牙(りゅうが)にはサークル入るの反対されたけど、俺だって花の大学生。遊びたい盛り……なんだよな?】
「痛っ!な、なんだよぉ」
林に背後からいきなり男がぶつかってき、林の声にその男がジロッとこちらを睨みつけてくる。
右眉の上の辺りに大きな切り傷があるつり目で目力のあるその男は誰が見ても表の世界の人間ではなかった。
「す、すみませんっ」
林は悪くないのに男の人相を見て平謝りするとチッと男は舌打ちをし、林の足元に唾を吐いて足早に歩いて行った。
とにかく何事もなく消えてくれて2人はホッと胸を撫で下ろす。
「やっば。あれ絶対"あっちの人間"だよ。関わり合いになりたくないよ」
「う……うん」
「早く行こう?」
足早にその場から立ち去ろうとする類の横をふいに走り抜けて行った1人の男に類は即座に振り返った。
「ちょっと待って。嘉人(よしと)!」
「悟(さとる)……さん?」
【見間違い?】
腰まであった長い黒髪を肩にかかるくらいの長さに切ってはいるが間違いなくそれは悟だった。
類への辰巳の強姦事件以来、学(がく)と竜牙の働いているホストクラブ【雅-MIYABI-】を辞め、悟が家を出て行ってからかれこれもう半年以上は経っている。
【み……見つけた、悟さん】
学が連絡を取ろうとしても携帯は繋がらず所在は分からずじまいだった。まさかこんな形で再会するなんて……
「林、ごめん。俺、用事を思い出した。今日は1人で行ってくれ」
「ええーっ。おい、類っ!……なんだよ、類ってば。……次は付き合えよなぁ?」
「悪いっ」
類はそんな林を置いて踵を翻すと急いで2人の後を追った。
ずっとあれから悟の事をそれぞれが気にしていた。誰も何も言わないけれど---
悟の部屋は未だに出ていく前のそのままの状態でキープされている。それが何よりの証拠だった。
「ここで見失うわけにはいかない」
類はキョロキョロと辺りを見渡し、ある建物の前で話し込む2人を再び見つけ思わず身を隠す。わずかにだが類のところまで2人の会話が聞こえてきた。
「嘉人、僕はこんな事もうしたくないんだ」
「はぁ?お前自分が何言ってるのか分かってるのか?」
そう言うと"嘉人"というその男は悟の髪を引っ掴み後ろへ強く引っ張った。
「なっ!」
思わず類は声を出しかけて自ら自分の掌で口を塞いだ。
【あいつ、悟さんの何?】
「い、痛い……嘉人、止めて?」
「いいか?お前は俺の言う事だけを聞いていればいいんだ」
そう言うと同時に男の携帯が鳴り悟の髪を引っ掴んだまま何やらボソボソと話し始めた。
「うまく聞き取れない」
携帯を切ったあと、悟を壁に突き飛ばし「客が来た」と言って悟の腕を強く引っ張って何処かへ連れて行く。
悟は嘉人に引かれるまま入り組んだ路地を通り、蔦の絡まった古い建物の中へ入って行った。
類がその後を追うとそこには派手な看板などは無く、一瞬見逃してしまいそうなくらい目立たない場所に店名が表示されていた。
店の名前は『Secret』
【『Secret』……秘密?何のお店なんだろう】
類は暫くその場で悟がもう一度出てこないか待機した。しかしいくら待っていてもたまに中に入って行く客らしき男性以外に出てくる者はいなかった。
「悟さん……」
深夜になればなるほど次第に辺りが冷え込んでくる。類はたまらずハァーっと掌に温かい息を吹きかけた。
「これ以上待っても出て来ないかなぁ」
仕方なくこれ以上の詮索は断念することにした。
悟が今ここに居る事は間違いなさそうだった。きっとこの界隈の事なら学や竜牙に聞いた方がきっと早いだろうと類はひとまず家路についた。
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