掌の恋

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 嫌われないか臆病になったり、急に抱きしめたい衝動に駆られたり、頭の中が彼女のことでいっぱいになったり、制御することができないほど相手を渇望することを恋と呼ぶのなら、城田恭介の初恋は三十一歳ということになる。  二十六歳の時に別れた彼女を最後に恋人を作ることをやめた。別にその彼女にひどい目に遭わされたとか、恋愛は懲り懲りだとかいう感傷的な気持ちになったからではない。  ただ単に、特定の恋人を作るメリットが感じられなくなったためだ。  顔は悪くないし身だしなみにも気を遣っている、身体を鍛えて程よく筋肉をつけ、同年代よりも高水準の給料をもらい、遊びにくのはどんなジャンルでも大体好き。そんな城田は昔から女性を惹きつけた。合コンやナンパで女の子に声をかけると、こちらにその気がなくても女の子からワンナイトのサインがくることもしばしば。そうして二十七歳の時、恋でも愛でもないけれど、デートを楽しんでセックスをするだけの後腐れのない疑似恋愛を好む女性は思いの外いて、特段恋人を作らなくても、心も身体もある程度満たされることを知った。
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