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再会
再会は病院だった。
娘には先天性の腎疾患があり、幼い頃から入退院を繰り返していた。
五歳の誕生日を目前にして再入院の決まった娘の病室に、内山が現れた。
「久しぶり……」
声をかけられ、その話し方で記憶がよみがえる。
「内山……か?」
俺の問いかけに内山は黙ってうなずいた。
付き添いを妻に任せて、俺は誘われるまま内山の車に乗りこんだ。
なんだかおかしな気分だ。
同級生とはいえ、語るような思い出などほとんど無い。
「あれから……大丈夫だったか?」
俺はポツリと尋ねた。
「あれから?」
「ほら、矢崎とかいう先輩、自分が卒業してからもちょこちょこ学校に来てはお前にたかってただろ?」
「ああ、あれね。ホントに懲りない奴でね。今日で満額貸付になるんだ」
「満額……貸付?」
聞きなれない言葉と、急に変わった内山の話し方に戸惑う。
「要はあいつ、自分の運を使いきっちゃったってこと。だから利子を含めて今から取り立てにいくって訳」
「取り立てって、金返してもらえるあてでもあるのかよ?」
「金? そんなの要らないよ。僕が返済してもらうのはラック。つまり『運』だね」
運を……返済する?
理解の追い付かない俺に、内山は説明を追加する。
「君には過払い運があるから、それも一緒に清算しようと思って今日来てもらったんだ」
「俺に、何があるって?」
「僕は君にジュース一本分のラックしか貸し付けていないのに、君は僕にジュース18本、パン12個、お菓子24個の返済をしている。これは明らかに過払いだから、規定の利息と一緒にお返しするよ」
「数なんか覚えてねぇけど、そんなのいいよ。だいたい俺のせいでお前はたかられるようになったんだろ?」
内山は見通しのいい十字路を抜けると、コンビニにバックで車を止めた。
「いやいや、貸付は拒まないよ。大事なお客さんだからね。
とはいってもあのクズは自分の価値以上にラックを借りすぎたんだ。もうそうなると客じゃない。貸付できない以上は取り立てるしかない。
しかも、返済不能な分は連帯保証人にも取り立てが及ぶんだ。
何でそこまで放置したかって? もちろん必要だったからだよ。君に過払いラックを支払うためにね」
「……俺の……ため?」
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