0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
古本屋でとある文庫本が目に留まった。黒い紐が飛び出ている。栞だ。元の持ち主が挟んだのを店員が取り忘れたのだろうか。僕は文庫本を手に取り、栞が挟まれているページを開いた。中身はごくありふれた日常を題材にした小説だ。一方、栞は台紙も紐も黒インクに浸したのかと思うぐらい黒かった。無地で、何の装飾も無い真っ黒な栞とは珍しい。僕はもっとよく見ようと栞をつまみ上げた。すると、栞からぼとり、ぼとりと黒い滴が落ち始めたではないか。本を汚してしまうと慌てた僕は、反射的に文庫本へと目を向けた。しかし黒い滴は染み一つ残さず、文庫本に吸い込まれていく。夢でも見ているのだろうかと訝しんで栞に視線を戻すと、今度は栞自体が蝋燭の蝋のように溶け落ちている様子が目に入った。気味が悪い。本も栞も放り投げてしまいたい。しかし僕は目も、手もはなせなかった。栞が文庫本にすべて吸収された時、どうなるのか、気になって仕方がなかった。
最初のコメントを投稿しよう!