黒い栞

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 古本屋でとある文庫本が目に留まった。黒い紐が飛び出ている。(しおり)だ。元の持ち主が挟んだのを店員が取り忘れたのだろうか。僕は文庫本を手に取り、栞が挟まれているページを開いた。中身はごくありふれた日常を題材にした小説だ。一方、栞は台紙も紐も黒インクに(ひた)したのかと思うぐらい黒かった。無地で、何の装飾も無い真っ黒な栞とは珍しい。僕はもっとよく見ようと栞をつまみ上げた。すると、栞からぼとり、ぼとりと黒い(しずく)が落ち始めたではないか。本を汚してしまうと慌てた僕は、反射的に文庫本へと目を向けた。しかし黒い滴は染み一つ残さず、文庫本に吸い込まれていく。夢でも見ているのだろうかと(いぶか)しんで栞に視線を戻すと、今度は栞自体が蝋燭(ろうそく)の蝋のように溶け落ちている様子が目に入った。気味が悪い。本も栞も放り投げてしまいたい。しかし僕は目も、手もはなせなかった。栞が文庫本にすべて吸収された時、どうなるのか、気になって仕方がなかった。
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