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「今の部署に異動する前に、児童文学の部署にいたんだ。君を見ていたら、なんだか思い出した」
「……え?」
「ありがとう」
彼は怜の目をまっすぐに見て言う。
「今、間違いだったかもしれないと思っていることが、この先もずっと、間違いだとは限らない。その通りかもしれない。今の僕にとっては、まだ、言い訳じみてるかもしれないけど。
本当のことっていうのは、誰が言わなくたってやがて自分自身にはわかるものだよ。
相手が傷つかないようにって言葉を選んだり、優しいことを言うのは、それを少し遅らせているだけ。そんなのってほとんど意味がない。
みんな、本当のことを認めるのが怖いから、誰かに言われると怒ったり傷ついたふりをするんだ」
それに、と続ける。
「君の言葉にあるのは毒じゃない。誰にもない、スパイスだと思うといい。辛くてもしょっぱくても、欠かすことのできないもの」
そこまで言うと彼は柔らかく微笑む。
そのクールな雰囲気からは想像できなかった、彼の頬に一瞬あらわれたえくぼに、怜はドキッとする。
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