石のお姫様

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 高校ニ年のとき、一つ上の先輩と付き合った。彼はバトミントン部で活躍していたが、右脚を骨折して、引退試合には出られないことが決まり何日間か学校には来なかった。やっと登校してきた日、試合に出られないのなら受験勉強に専念すればいい、と教材を渡した。励ましたつもりだったのだ。  だけど彼は、まるで世界に絶望したかのような表情を向けた。 「怜は顔は可愛いのに中身は全然違うよな。心が氷みたいに冷たいんだ。付き合ってみてわかったよ」  そして二度と怜とは口を利かなかった。  いつも怜からみんな離れていく。中には「怜って毒舌だよね」と面白がってくれる物好きの子はいたけれど、怜がいないところで、みんなが怜のことを「ソシオパス」だと呼んでいたのを、怜は知っていた。  みんな言った。怜は、思いやりがなく、冷たい人なのだと。  修学旅行の班決めでどこのグループにも入れてもらうことができず、怜を心配した高校の担任の先生が保護者会につけて母に話をしたそうだ。  帰宅した母は、ソファに座ってテレビを観ていた怜に向き合った。母の頬が紅く染まっているように見えた。リビングに差し込む秋の夕日のせいなのか、熱があるせいなのか怜にはわからなかった。  その頬に触れようと、制服の上から重ねたベージュのセーターの袖を掴んだままの右手を伸ばす。 「おかあさ……」 「怜、あなたの言葉には毒があるの」  ビクリとして手を引っ込める。
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