15人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
母は続ける。
「一度口から出た言葉はもう、元には戻らないのよ。そうやってね、自分の思うことをそのまま言っていいのは、それでも周りがついてきてくれるくらい特別な才能を持った人じゃないとダメなの。怜が言ったことで、相手が傷ついているのがわからない? 怜にはどうしてわからないのかしら?」
母の瞳が潤んでいるのがわかって、怯んだ。どうして母は泣いているんだろうか。紅いのは夕日のせいではない。熱があるのだ。興奮して、人を傷つけて生きることしかできない娘のことが恥ずかしくて――。きっと。
それから怜は口をつぐむようになった。何を言っても、自分の言葉は毒になる。知らないうちに誰かを傷つけてしまう。だったら、何も言わないほうがいい。黙っていよう。
そうやって、ただ黙って人の話を聞いていると、思いがけず「聞いてくれてありがとう」と感謝されることもあれば、ほとんどは不機嫌なのかと思われることもあったけれど、それはそれで怜にとっては都合が良かった。
何も言わなければ、誰かを傷つけることもないのだから――。
そうして大学を卒業すると、なるべく人と接する機会の少ない仕事を選んだ。フラワーショップで剪定などを担当するもの。接客は店長の小池さんが担当するので、裏で黙々と注文を受けたものを剪定したりアレンジしたりするのが怜の仕事だ。
最初のコメントを投稿しよう!