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いつも配達は小池さんが担当しているのだが、今日は娘さんが体調を崩しているとかで看病のためお休みだった。怜は慣れない接客をしながら、夕方早めにお店を閉めると予約のあった配達先へ向かう。
届け先の出版社の入居するビルに到着すると、ライトグリーンのカーデガンを羽織り、車から降りる。まだ少し肌寒い四月の夕刻の風が、後ろに一つに纏めた黒髪をさらい、怜のうなじにツンと当たる。お祝い用の三本立ちの華やかな白い胡蝶蘭を両手に抱え、受付のある十階までエレベーターに乗る。
花びら越しに閉ボタンを押そうと人差し指を伸ばすと、駆け込んできたのは、三十代半ばくらいの男性だった。
一瞬、なぜだかわからないが恨めしそうな目を向けられた気がした。
軽く頭を下げ、彼は操作パネルの方に寄って自ら閉ボタンを押す。静かに上昇し始めたところで、ガタッと嫌な音がする。
止まったようだ。
故障だろうか。彼はすぐさま、操作パネルの非常ボタンを押すが、ツーツーと、頼りない音を発するだけでつながらない。
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