石のお姫様

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「止まっちゃいましたね。故障みたいです」  彼はため息をつきながらこちらを振り返り、怜のことは外部の人だとわかっているからか、申し訳なさそうに言う。 「ええ」  ポケットからスマホを取り出すが圏外のようだ。 「ちょっと、待つしかなさそうですね」  彼がわかりやすく眉を下げるので怜はもう一度「ええ」とだけ言って手持ち無沙汰に狭いエレベーターの中を見渡す。当たり前だけれど、話題になりそうなものも面白みのあるものも何もない。こんな狭い空間では、呼吸の音さえ、半歩ほど前に立っている彼に聞こえてしまいそうで、数秒間息を止めてみてはゆっくりと、こっそりと吐く。  ふと、こちらを振り返った彼の首からかかった社員証に目をやったところで「あ」と思わず声を小さく漏らす。  北川凌一。  お祝いの宛名と同じ名前だったのだ。立札の「祝」、の赤い文字の下には確かに同じ漢字が並んでいて、編集長と書いてある。 「……おめで」  怜は消え入るような声でそこまで言ってやめ、口の端をきゅっとやる。彼は一瞬驚いたような顔でこちらを見てから、 「面白い人だ。お祝いの言葉を途中でやめるなんて」 「あ、いえ……」
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