石のお姫様

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 そうだ、さっきの恨めしそうな視線は胡蝶蘭に向けられたものだったのかもしれないと思い当たった。  何も言わないほうがいいとわかっているのに、二人だけの、このエレベーターという密室で、妙な緊張が走る。じっと怜の言葉を待っているようにこちらを見てくる彼に、黙っていることは許されない気がして仕方なくつぶやく。 「あまり嬉しそうに見えなかったので」  一瞬、彼の表情がこわばったので、気分を害したのではないかと思ったが、思いがけず溢れ出たのは力の抜けた笑いだった。 「あの……」  言いかけると、彼は笑うのをやめて「失礼」と、軽く咳払いをするとこちらに向き直る。 「何年もずっと一緒に働いている同僚やチームのみんなが『おめでとう』って言うんだ。それなのに、こうして初めて会った君に本当は嬉しくないなんて、言い当てられた気がして、なんだか笑えてしまって」  もう一度非常ボタンを押すが、相変わらず返答がないので諦めたように彼はツーッと壁に背中を這わせて、その場に座り込む。行き場をなくした長い脚をポイと投げ出し両腕を上げて背伸びする。怜も抱えていた胡蝶蘭をそっと隅に置いて対角線上に座る。 「ここのビル管理は怠慢だね。でもまあ、ちょうど休憩したかったから、よかったかも」
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