石のお姫様

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「言いたいことがあるなら言えばいいのに」  そう言われるのが一番嫌いだ。実際に言いたいことを言ったとして、許されたことは一度だってあるだろうか。  小さい頃からそうだった。みんなが空気を読んで言わないことを怜は平気で言った。悪気があるわけじゃない。本当のことをどうして言ってはいけないのか、怜にはわからなかった。  中学二年の冬休み前、期末試験が終わった放課後、晴れ晴れとした気持ちで教室の窓のヘリに腰掛け、真に透明な青空をぼうっと眺めている怜に、クラスメイトが声をかけてくる。家庭科の調理実習グループが一緒で、たまに会話を交わす程度だったが、彼氏と喧嘩をして悩んでいるので愚痴を聞いてほしいと口先を尖らせ細い体をくねる。  最初から最後まで話を聞き、 「その彼と付き合うのは、あなたの時間の無駄になるから、今すぐにでも別れたほうがいい」  と説くと、その子は泣き出した。教室に残っていた三、四人の女子グループが驚いてこちらへ来る。 「そういうアドバイスが聞きたかったんじゃないのに」  そう泣きながら訴える彼女の背中をさすりながら、事情も知らないグループのうちの一人がすごい勢いで睨みつけてくる。怜はぴょんっとヘリから降りると、バッグをさらうように持って教室を出ていった。  そうして冬休みが明けた一月、怜に話しかけてくる子は誰もいなかった。
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