人魚の国

6/6
前へ
/6ページ
次へ
「ははっ!冗談だよ!そうだ、今日は楽器を持って来たんだ」 シュウが担いできた袋の中には、弦楽器が入っていた。 マンドリンというこの国の伝統的な楽器で、艶のある木製の丸い本体に金の縁取りが施されている。 「ミュウは楽器に興味あるのかな…?」 「ミュ~?」 ミュウは再び右手を水面から出した。 人魚の皮膚は乾きやすいのですぐに乾燥し、恐る恐る楽器の持ち手に触れた。 どうやら楽器を見るのは初めてらしい。 「これはね、こうやって右手で棒の部分を持って、左手で弦をはじいて弾くんだよ」 シュウが実際に音を鳴らして見せると、静かな森と湖にマンドリンの音が響いた。 鳥のさえずりのように美しく、異世界を想像させるような不思議な音色だ。 シュウは母親に教わった短い曲を弾き終えた。 「いい音だと思うんだけど、どうだった?」 「ミュ~!」 ミューは目を輝かせた。 この音色をずっと聴いていたくなると感じるのは、人間も人魚も同じらしい。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加