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今日の夜も真琴からの通話が始まる。
「真奈、チョコパン美味しかったよ」
「真琴に食べさせたいなぁって思ってさ」
「そうそう。真奈の誕生日っていつだっけ? 」
「おーい。誕プレないと思ってたら忘れてたの? 」
「ふふ。いつだっけ? 」
「二月九日でしょ! 」
ちょっと腹が立つ。毎年、真琴が誕プレを忘れたことなんてなかったのに。
「いくつになった? 」
「そこまで聞くか!? アラサーなんだぞ! もう! 」
「では、真奈さん、これから郵便受けを見てください」
「真琴も来たの? 」
「毎日のことだろ」
私は真琴に言われたまま郵便受けを覗きに行く。そこには小さな包み。それを手にPCの前に戻る。
「ねぇ真琴、これ何? 」
「開けて」
包みを開けるとそれは確かに私が欲しかったものだ。
「なんで……、こんなことまで遠回しなの……。これから会いに行っていい? 」
「ダメかな? 」
「私……、こういうことは直接顔を合わせて言ってほしい……」
「やっぱりか」
真琴のその言葉のあと、インターホンが鳴る。
「え? 嘘? 」
私が駆け足で玄関に向かい、扉を開けると案の定、そこには真琴がいた。
「真奈、結婚を申し込みに来たよ」
私の目からつい涙が流れる。私の手には真琴が郵便受けに入れた指輪。
「何年待たせるのよ! しかも恋人通り越して結婚!? どうして真琴はそんなに私の心を鷲掴みにするのよ!? 」
スーツに身を包んだ真琴は、ふわっと笑う。
「初恋を実らせるためだよ。真奈の時間は僕が請け負うんだ。僕らは大人になったし収入もそれなりになったから。僕と真奈の初恋を実らせるには大事な時間だったろ? 」
「乙女の時間は短いんだよ? どれだけ不安だったか分かってるの? 」
「いーや。女の子の乙女の時間は一生だよ。真奈はこれからも綺麗だよ」
「いつも遠回しなくせに……。そういうときだけ……」
「受けてくれないの? 」
「受けるよ! どれだけ待ったと……」
毎年、真琴にあげていたクッキー。その感想は交換日記だったりメールだったり電話だったりSNSだったりビデオ通話だったりしたけど、毎年同じ言葉があった。
『来年も欲しい』
そうやって真琴は私の一生の時間を奪っているんだ。いいよ。真琴にならあげる。遠回しなくせに素直に言う君だから私は待ったんだ。でも、これだけは言わしてもらう。
「待たせすぎだ。真琴のバカ……」
了
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