遠回しな君は意外と素直だったりする

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 そいつはきょとんとした目で私からクッキーを受け取り小さな声でありがとうと呟いた。気になる男の子に精一杯の勇気を出して渡したバレンタインの贈り物。あまりの反応の薄さにこの恋は終わったのではないか? と途方に暮れたのは小学何年生のときのバレンタインだっけ?  そいつは私が打ちひしがれたバレンタインの翌日に飄々と『交換日記やらない? 』とか持ち掛けてきた。私は恋は終わってなかったか! と持ち直したのも束の間。まるで霞を掴むようなそいつの性格は大人になった今でも変わらない。進学も就職も経験したのに、なぜかいつまでもそいつと恋人にはなれなかった。だと言うのによく分からない関係が未だに続いているのは何なのだ?  恋人ではないが、そいつといると気が楽だし、どうしてもそいつ以外と恋愛する気にならないものだから、三十路間近の女盛りのはずの私は未だに恋愛未経験だ。  たまにぶっ飛ばしたくなる。ならば私のほうから歩みよればいいと思うだろう?  『好きだよ』って言ったら『僕も好きだよ』とストレートに返ってくるが、『きっとまだ好きになれる要素があるからもうちょっと見させてね』と嬉しいが突っ込みづらい返答が返ってくる。  好きか嫌いかで言われたならば私は確実に好かれている。だが、そいつは飄々としすぎて捕まえることができない。  会社でもそこそこモテるくせに『真奈ちゃんと約束あるから』とどんな誘いが来ても私を最優先にしてくれる。だが、歯がゆい。  青春が続いていると言えば続いているが、長すぎる青春、しかも恋愛なんて若いうちにするに限るのにあやつと来たら、私が年齢を気にしていることすら気にかけてはない。気にかけてはないが気付いている。尚更、たちが悪い。
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