遠回しな君は意外と素直だったりする

2/4
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「別れちゃえば? 」 「ちょっと待て紗和(さわ)。付き合ってないのにどうやって別れるんだ?」 「もう待てない! このろくでなし! って叫べばいいじゃない? 」 「いやいや。真琴(まこと)はろくでなしじゃないし! てか、私は真琴以外と恋愛する気はない! 」 「そうやって真琴をすぐかばうのは真奈の悪いくせだよ? 付かず離れずの関係を構築しちゃってるから前進しないんだよ。命短し恋せよ乙女。私たちは乙女の時代から抜けかけているんだよ? こうやって世の中オンラインじゃなきゃおしゃべりも難しくなってるのに、いつまでも受け身じゃ何もできなくなるよ? 」 「うん……。紗和の言うことは私だって分かる……。いつまでも初恋にしがみついてバカみたいだって私も思う……」  真琴と交換日記をはじめた日、ノートの最初の頁に『僕は橘真琴。真奈ちゃんからのクッキーとても嬉しかった。美味しかった。来年もまた欲しい』とそう書かれていた。交換日記なんて遠回しな方法で喜びを伝えてくる真琴がおかしくて、可愛いと思った。恋人になれぬまま、十数年が経つが遠回しであっても私に最も嬉しい言葉をくれるのは間違いなく真琴なのだ。  小学校では大したおしゃべりもしなかったが、真琴は交換日記だと饒舌になる。テレビやラジオや本に男の子の変な生態とか教えてくれるし私が気になっていることは真琴もすぐに食い付いてきた。  中学生になってからは、交換日記の頻度が減り、メールになり、電話になり、高校生になってからはSNS。私の時間は常に真琴と共にあった。世の中が自粛を叫ぶ今では、ビデオ通話となった。結果、真琴と直接会う機会は減ったが、夜の九時には毎日真琴とオンライン通話をしている。 「紗和、そろそろ九時だから……」 「全く。真奈も真琴最優先だもんね。早く恋人になりやがれ。コノヤロー」  紗和はそう言って通話を切る。その五分後には真琴からの通知が来る。 「真奈、お疲れ様」  相変わらず優しい顔と声の真琴。 「私、今、紗和に怒られてたよ」 「へぇ。僕らの関係についてかい? 」 「それ以外で紗和が怒るとおもう? 」 「ん〜。ないな。そうそう、今日さ、バレンタインじゃん。だから真奈の部屋の前に花を置いたから」 「また、そういうことを……」 「だって真奈も僕の部屋の郵便受けにクッキー入れたろ? お返しだよ」  そう。私たちは顔を合わせないが、お互いの部屋の郵便受けや扉の前に贈り物を置いてくる。今日はバレンタインだからちょっと奮発したが、お互いに些細な贈り物をしている。交換日記の名残のようなものだ。こういう関係だからこそ期待するし、未来の旦那様は真琴のはずだと私は信じている。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!