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「真奈、ちゃんとお肌のケアしなよ。じゃあおやすみ」
毎晩夜の九時にオンラインでお互いの顔を見て、おやすみと通話を切る。大したことを話す訳じゃないが、まるで恋人のようだと毎日の細やかな楽しみでもある。
「お肌のケアかぁ」
スキンケアはちゃんとしている。真琴という気になる異性がいるのだから当然だ。真琴が私にお肌のケアをしろと言ってきたのは確か中学生の頃だったかな?
『可愛い姿で長くいられるのは大切なことでしょ? 』とか言っていた気がする。早々とスキンケアをはじめた私は同年代ではかなり若く見られるが、実年齢ってのは、どうしようもなくケアできない。
「お前のためにお肌のケアしてるんだぞー」
通話の切れたPCの画面に私は文句を言ってみる。本人に聞こえなきゃ意味がないのだが。
翌日、私はのそのそと起き出して、トーストとコーンスープで簡単な食事をとる。世の中の事情で仕事はリモートワークとなった。週に一度は出社するが、世の中の変化に機敏に対応できる会社に勤めることができたのは誇らしくもある。リモートだからといってダラダラやると仕事が進む気がしないので、例えリモートと言えども着替えるしメイクもしっかりする。ただ孤独感は否めなかったりする。
カタカタとPCを打ち込み、時間は思うより早く進み気がついたならばすでに昼。外を見てみると陽気が差しており、二月にしてはかなり温かいことを昼になるまで気付けなかった。
「買い出し行くかな」
気分転換にパン屋なんかに行くのもいいかも知れない。バレンタインの時季なのだから、美味しいチョコパンとかあるはずだ。そう思ったならば現金なものでお腹が鳴る。
「よし! 今日はチョコパンだ! 」
マスクを付けて散歩がてら外に出ると、やはり陽気のせいか行き交う人の数は少なくはない。皆、マスクをつけているがその目元は天気のせいか穏やかに見える。近所のパン屋は人はまばらではあるが、店員の顔を伺うとそれなりに繁盛しているのだろう。笑顔であることが分かる。
お目当てのチョコパンはきっちりとイベント展開されてあり、チョココロネやチョコクロワッサンがびっしり並んでいる。食べたいものをトレイに載せながら、私が思うことは真琴に食べさせたいなということだ。
結局、欲しかったパンを二つずつ購入して、その足で真琴のアパートに足を向ける。真琴のために買ったパンをドアノブに提げて私は私のアパートに戻った。
時間をかけてコーヒーを淹れて、のんびりとお昼の時間を楽しむ。やっぱり二月はチョコだ。チョコを食べるだけで元気が出る。真琴もリモートワークのはずだから、今頃はチョコパンを食べているかも知れない。こんな行為は学生かお節介なおばちゃんでなきゃやらないだろう。いつか真琴と結婚したら、恋愛でよく分からない苦労をしている私はお節介なおばちゃんになっちゃうかも知れないな、なんて思ったりもする。
前進はないが、未来を想像するときは、やはり真琴がセットだったりする。
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