#1.素直になれなくて【彼女side】

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#1.素直になれなくて【彼女side】

「なんでそうなるの」 「は?」 「なんでわかってくれないの!?」 「……もういい」 声を荒らげた私の言葉を聞いて、彼はそう一言静かに呟いて、この部屋を後にする。 あぁ、今度こそ終わりだ。 きっともうこの部屋には戻ってこないだろう。 遠くに鳴り響く玄関のドアが閉まる音を微かに聞きながら、1人突きつけられた現実に愕然とする。 ホントはこんなはずじゃなかった。 ただ寂しかっただけなのに。 ただ君が恋しかっただけなのに。 だけどいつも素直になれない私は いつものようにまたつい可愛げ無い態度と言葉を彼にぶつけた。 わかってる。 彼は彼なりに私のことをきっと考えてくれてた。 彼なりに多分努力をしてくれてた。 だけど、きっと私の方が彼のことがもっと好きだから。 だから、私の気持ちがただ一方的に溢れて苦しくなる。 してほしいことも 欲しい言葉も 彼も私も 素直に伝えるタイプじゃないから。 だから結局相手より好きになった方が負け。 だからお互い気持ちをわかってたはずなのに。 結局は、わかってたつもりなだけだった。 私のこの想いは彼にどれくらい伝わってるんだろう。 ホントはどれだけ大切なのかちゃんと知っててほしかったのに。 きっとこれは素直に伝えなかった私のせいだ。 こんなことになるなら ちゃんと素直に伝えればよかった。 もっと好きだと伝えればよかった。 もうどれだけ考えても どれだけ後悔したって遅いのに。 素直じゃなくて、黙って出ていく彼を引き止めることだって出来やしない。 ただ黙って出ていく音を耳を澄まして聞いてるだけしか出来ない。 こんな時でさえ結局私は素直になれなくて。 このままサヨナラなんて嫌なはずなのに。 身体が動かなくて ただ悔しくて切なくて恋しくて 涙だけが溢れる。 だけど彼が居なくなった今 素直に泣けなかった分だけ 我慢せずに彼を想って ひたすら泣こう。 今はただこの涙が枯れるまで泣き続けて 泣き果てたら また彼に素直な気持ちを伝えよう。 ただ彼が大切だと。 彼が1番なのだと。 「あ~あ バカだな~」 要領悪い不器用すぎる自分に呆れて 笑い泣きしながら 今更ながら気持ちが漏れる。 「誰が?」 すると聞き覚えのあるそこにいるはずのない人の声がする。 「へ!?」 後ろを振り向くと、そこには彼の姿。 「は!?ちょ、なんでいんの!?」 私は状況が飲み込めなくて慌てたまま、彼に問いかける。 え、いつ帰ってきた? 泣いてたからか、帰ってきた音さえも気づきもしなかった。 まさか彼が戻って来るなんてこと、思ってなかったから。 「なんでって。コンビニ行ってただけだし」 「は?コンビニ!?」 まさかの予想もしない言葉が彼から返ってきて思わず声もひっくり返る。 「なんだよ。変な声出して」 そう言いながら彼はさっきまで起きたことが何もなかったかのように平然として不思議そうに私に呟く。 「いや、え、さっき出て行ったよね?」 「うん、だからコンビニ」 「いや、だってさっき言い合いしてたよね?」 「してたね~」 「してたね~って……。 だからそれで嫌気さして出て行ったんでしょ?」 「いや? あんなのいつものことじゃん」 え? 真剣に落ち込んでたのは私だけ? 「そうだけど……。 でも……もういいって言ったじゃん……」 そう、彼のその言葉が私には決定打で。 その言葉が、私なんてもういいと全部否定されたかのようで。 突き放されたその言葉は私に嫌気がさして最後に伝えた言葉なのだと思った。 「言ったね~。だから、もういいって。 こんな意味ない言い合いはおしまいっていう、もういい」 「え?そういうこと!?」 「だからコンビニ行った」 あまりにも的外れなその言葉に思わず拍子抜けしてしまう。 「何?もしかして違う意味だと思った?」 「そうだよ……。 黙ってそんな言葉だけ言って出て行ったりするから……」 急に1人取り乱してた自分が恥ずかしくなってきて、少し小さめの声でボソボソと呟く。 「何?泣いてんの? ちょっと不安なった?」 拗ねるように俯きながら呟いてた私の顔をそう言いながら彼が覗き込む。 「な、泣いてない!」 明らかに誤魔化せない状況でも否定するまだ素直じゃない自分。 だって、その覗き込んだ彼の顔は余裕綽々で。 意地悪そうな嬉しそうな顔しながら私を見つめてくるのが悔しくて。 そんな彼の表情に。 近くで私だけ優しく見つめるその顔に。 不覚にもドキッとして。 「ずるい……」 思わず悔しくて素直な気持ちが零れる。 「は?何が?」 笑いながら彼が言葉を返す。 「ムカつく……」 やっぱりその余裕綽々な彼にムカついて。 1人拗ねてる自分がバカみたいで。 勘違いしてた自分が恥ずかしくて。 結局こんな時もそんな彼にドキドキする自分に気づいて。 やっぱり素直じゃない言葉を私はまた口にしてしまう。 「だから何が?」 そう言いながらも結局余裕で優しく微笑みながら、私をこの人は包み込んでくれる。 あぁ、だから私はこの人のことがこんなに好きなのかもしれない。 私のことを全部わかってるこの人には、きっと私は適わないんだ。 「もういい。なんでもない」 私はどうにかこの場をやり過ごしたくて顔を逸らして誤魔化す。 「かーわい❤」 「は!?」 また予想もしない言葉が飛んできて思わず驚いて顔を上げる。 すると。 「ん」 「え?」 そしたら目の前に差し出されたこれは…… 「アイス」 「アイス?」 目の前に今コイツが食べてたであろうアイスを差し出される。 いや、待て。 なぜにアイス。 そして、コイツは私が必死な時に余裕でアイスまで食べてたというのか。 「は~」 思わずこの予測不可能な男を見て溜息が出た。 「ほら」 するとこの男は、今度はその食べかけのアイスを私の口に差し出して、無理やり食べさせてきた。 「ちょっと!」 「ほら、溶けちゃう溶けちゃう」 そう言われて逃れられない状況で、そのままアイスを咥える。 なんだこれ。 「甘いっしょ?」 「うん、甘い……」 甘い、甘いけど。 美味しいけど、なんだよもう。 「なんて顔してんだよ」 まだ拗ねながら不服そうにしてる私を見て、また余裕な微笑みを浮かべて彼がからかう。 「だって……!」 くわえたアイスを口から出して、そう言おうとしたら…… 「!?」 「甘い❤」 一瞬のことで何が起きたのかわからなかった。 彼がニヤリとしながら私に唇を重ねた。 私はさすがにこの状況での彼の行動に驚いて、胸が高鳴るのと同時に言葉を失って彼をただ見つめる。 「何?オレがいなくなると思った?」 また彼は嬉しそうに微笑みながら私に問いかける。 「いなくなる訳ないじゃん。 オレ面倒見れるのお前だけだし」 「それは……確かに」 こんなめんどくさい男他に相手出来ないか。 「お前面倒見れるのもオレだけだし」 「それも……確かに」 うん、妙に納得。 お互いめんどくさい同士結局この結果に落ち着くって訳か。 そう思ったらなんか急におかしくなって。 「ふふっ」 思わず笑いが零れた。 「何」 「なんでもない」 あーやっぱこうなっちゃうんだな。 何事もなくまたいつもの二人に戻れたことが嬉しくて笑みが零れる。 「それに……こんな可愛い奴ほっとけないし、オレが」 「え、は!?」 そんなこと滅多にいうタイプじゃないだけに思わず戸惑う。 「何、急に!?」 恥ずかしさをとっさに誤魔化すように彼に問いかける。 「知らなかった? オレがホントはこんなにお前に惚れてること」 今までにないくらい胸が高鳴る。 こんなにドキドキさせられるなんて聞いてない。 「知らないよバカ……」 自分でも鼓動が激しくなるのがわかって。 彼への気持ちがまた加速していくことに気づいて、ついまた可愛げ無い言葉を放つ。 「バカってなんだよ。せっかく素直に伝えてんのに」 「だって……」 そう言い返そうとすると、気づいたらすぐ目の前に彼の顔。 いきなりのことでさすがに私も固まって目の前の彼を見つめる。 「言って。お前も」 「な、何を」 「わかってるくせに」 こんな時でもやっぱり彼はどこまでも余裕で。 私を見つめる目が、今までになくどんな時よりも優しくて。 その彼の視線に吸い込まれそうになって、息が止まりそうになる。 私、こんなに彼のこと好きだったんだ。 こんなにも愛しくて仕方なかったんだ。 「もう……!あたしも惚れてるよバカ!」 そう言い返して勢いで目の前の彼に飛びついてキスをし返した。 彼の首に腕を回してまっすぐ彼に飛び込む。 ごめんね、素直になれなくて。 だけど、これでこんな不器用な私の気持ちをどうかわかって。 あなたにまっすぐ飛び込むこの想いを。 あなたの首にギュッと回したこの腕のぬくもりと強さを。 この重ねた唇から零れるあなたへの想いを。 この今の私全部で、どうかこの今のあなたへの想いを。 やっぱりあなたがこんなにも大好きだということを。 どうかあなたに伝わりますように。 そして私たちは笑い合いながらまた抱き締め合った。 やっぱりこの幸せは手放せないや。 こんな私だけど、どうかこれからもよろしくね。 たまにこんな風に アイスより甘いキスを。 こんな風に お互い愛しく想える時間を。
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