第1部 第8話  あての無い逃亡の始まり

1/1
前へ
/73ページ
次へ

第1部 第8話  あての無い逃亡の始まり

 全力で走り、肺が破れるのではないかとまで思えてきた頃に、二人は中央の街へと辿り着いた。賑やかな大通りを抜け、市街地の中心から少し外れた場所にある、こげ茶色を基調とした建物の前に立つ。 「カミル……いるかな?」  互いに不安な顔を見合わせ、フォルカーがドアノブに手をかける。だが。 「……留守か……?」  フォルカーが掴んだドアノブは寸とも回らず、ただガタガタと音を立てるだけだ。 「カミルは十三月の狩人に狙われてないのかしら? それとも、まさかもう……!?」 「俺達みてぇに、合流しようとして入れ違いになったかもしれねぇな……だとしたら、早く探さねぇと……」  そこまで言って、フォルカーの耳がまたピクリと動いた。険しい顔で辺りを見渡し、「くそっ!」と毒づく。 「もう追ってきやがった! テレーゼ、一旦逃げるぞ!」  そう言って駆け出した瞬間に、またもあの黒い矢が次々に降り注いでくる。しかし、今回は周りに多くの人間がいるにも関わらず、誰一人として悲鳴をあげる者は無い。不思議そうな顔をして、テレーゼ達を見詰めている。  どうやら、十三月の狩人の矢は、獲物とされている者以外には見る事ができないようだ。恐らく、その姿も獲物以外には見えないのだろう。  つまり、例え事情を語って信じてくれる者がいたとしても、その人物からの援護は望めない。姿が見えないのでは、守りようも攻撃しようも無い。獲物とされているテレーゼ達だけで、何とかしなければいけないのだ。  走りながらその結論に辿り着き、テレーゼの顔は更に青褪めていく。そしてその間にも、黒い矢は間断無く降り注ぐ。石畳の街中では、先ほどのように砂埃を起こす事もできない。  矢が背中を掠める気配に慄きながら、テレーゼとフォルカーは走り続けた。どこに逃げれば良いのかは、まだわからない。だが、走らなければすぐにでもあの黒い矢に貫かれて死んでしまう。  脇目も振らず、二人はただ、ひたすらに走り続けた。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加