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8 説得
「何を言ってるの。あんな人間に、どうして遺産を渡さないとならないのよ」
両方の弁護士の話し合いの内容を、それぞれの依頼人に持ち帰ることになったと、幸奈たちは説明された。
亮平の主張は、遺言書公開の時と変わっていなかったけど、財産の内容にはこだわらないと言ったらしい。
現金で相続分を支払うべきと、弁護士は文子を説得してきた。
「もし裁判になりましたら、小山不動産の株を要求すると言ってます。ですので、調停になる前に現金で解決するのがもっとも望ましいです」
「どうして株だと駄目なんですか?」
現金を払うよりいいのでは、と幸奈は思ったけど、弁護士は否定した。
「全額を株券にいたしますと、桐生氏は大株主になります。当然、桐生氏の意向を無視できません。経営や人事に介入が可能ということです。
現金ですと、小山不動産とは無関係なままですから、経営計画を立てる際に、桐生氏の意見を求める必要はないです。
ですから長期的に考えますと、現金が一番適切です」
「ああ、そうですね。仰るとおりに進めてください」
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