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指摘に、彼は困った表情になったけど、認めるように頷いた。
「分かった。
……幸奈の分を減らしたいとは思わなかったけど、遺産は欲しかった。妹には好きなことをさせたかったから」
亮平からは、幸奈も妹になる。でも、兄妹と実感する日は来ないだろう。それが、ほんの少し残念だ。
「受け取って当たり前のお金だから気にしないで。役に立つなら良かった。
今日は会えて嬉しかった。お母さまと妹さんによろしく……お兄さん」
一度だけになると思う呼びかけに、亮平は眩しそうに幸奈を見た。
「分かった、伝えるよ。
元気でな、幸奈。あの時はごめん」
十年前の、公園での冷たい態度のことだろう。彼女は首を振った。二分の一の兄は意外だけど優しかった。
「いいの。忘れたから」
二人はテーブル越しに握手をした。最初で最後の、兄妹の触れ合いだと思った。
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