10 二分の一の兄へ

2/2
前へ
/24ページ
次へ
 「どうしたの?」  彼女は視線で夫に説明した。視線の先には……  「あの人、幸奈の……」  夫も、あの時、あの場所にいた。  「うん。元気そうだね。良かった」  亮平が、女性二人と歩いていた。母親と妹だろう。二人とも亮平と似ている。  笑顔の彼を見る幸奈の瞳が(うる)んだ。  彼の姿がぼやけていく。夫に肩を抱かれながら、幸奈は兄に、心の中でそっと呼びかけた。  (お兄さん、幸せそうで良かった。私、子供が出来たの。お兄さんみたいな人になるように育てるね)  もう、会話を交わすことはないけど、幸奈は、二分の一の兄の幸せを祈っていた。                                 おわり
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

244人が本棚に入れています
本棚に追加