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どうやらエヌ氏は死んだらしい。目の前に神のすがたが見える。
「なぜ、わたしばかりひどい目にあうのです。あんまりではありませんか」
せっかくの機会だ。エヌ氏は神に抗議をした。神は動じることもなく答える。
「それはこちらの話だ。お前がわたしに捧げる金額はいつもすくない。それでは受けられる恩も限られたものだ」
「しかし、神さまならわたしの事情もわかっているでしょう。子どものときにあんな目にあえば信じることなどできなくなりますよ」
エヌ氏だって一歩も引かない。れっきとした理由がある。
「なんだ、そんなこと。子どものお前を助けてやったのは、ほかならぬわたしではないか。わたしの助けがなければあのときのお前はそのまま死んでいたのだぞ」
「なんですって。そんなばかなことが」
「神がうそをつくわけがないだろう。親切にしたのに冷たくあしらったのはお前のほうなのだ」
エヌ氏は黙る。神の言うことだ。信じるほかあるまい。
〈了〉
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