第一節 海の中の島 その1

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第一節 海の中の島 その1

   濃く深く青く、そして、穏やかに広がる海原───水平線の彼方からは、白く長い雲が幾筋も伸び、大空を渡り、そして後方へとゆるやかに伸び続いている───  今、走砂艇ドマーロは目的の海域───黄金の塔「ブベール」があると言われる島───その海域に到達していたが─── 「どこにも島が見当たらないね? オレージナさん?」  甲板の縁で海原を見ながらブルアン少年は傍らに立つ美しい航海士に目をやった。  フレイング・デッチマン号での戦いで、彼女の両足のミトコンドリア葉緑体電気義足に受けた傷は、既に大方の修理を受けており、かなり自由に歩けるようになってきていた。 (ブラーウ先生の腕に感謝しなくっちゃネ・・・)  そう思う彼女が口を開く。 「ブルアン・・・測量と計算で求めたこの海域で間違いはないはず・・・でも・・・おかしいネ?」  航海士オレージナは自身の測量技術と計算に自信を持っていたが、何か手違いがあったのか?と、少々の不安が頭をよぎりかけていた。 「いや、オレージナ、お前の腕は確かサァ!」  二人の元に歩み寄ってきた料理番グリンドーが包帯がきつく巻かれた右手で海原の一部を指して言う。  フレイング・デッチマン号での戦いで、貫通するほど深く刺された右手の傷はまだ完全には癒えていなかったのだ。 「見なせぇヨ! あの海の辺りを・・・白波が立っているじゃネエか?・・・恐らくサンゴ礁が海面すれすれのところに広がっているンだヨ」  確かに彼が指し示す海面には白波が立ち、その水面の下には青白いいくつかの塊が見えていた。 「今はちょうど大潮の時間だが・・・日が傾いてくれば、海面が下がって、何か島の一部が顔を出すだろう」  彼の言葉とおり、今、太陽は頂点にあり、昼の月も仰角はやや低いが太陽に連れ添うような位置にあった。 「夕刻まで待っていれば何か分かるだろうサ」  グリンドーはそう言い終えると、また以前のように左目でブルアンにウィンクしニヤッと笑った。
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