第五節 決別と旅立ち その1

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 やがて、薄いプラチナの繭の殻はすべて外れて、中から底部がやや膨らんだ釣鐘状の真っ白な宇宙船が姿を現した。  その宇宙線は鈍い金属の光沢を放つ三本のレールに囲まれており、宇宙船の下部からはエンジン始動の準備のためか白い水蒸気のようなものが少し吹き出ていた。。 「あのプラチナは、とてつもなく長い経年変化から宇宙船を守るためのシールドだったんだろう」  科学知識に強いブラーウ医師が分析してそうつぶやいた。 「さて・・・もう一つの仕事だがね・・・」  少し息が苦しくなってきたのか、アルネラの声が小さくかすれてきた。 「母さん! 大丈夫か?!」  グリンドーが母親の頭部を両手で優しく支えたが、今度はアルネラも拒否しなかった。 「この27年間・・・お前に会えることを信じて、今まで生きてきたのさ・・・ガルゴダ教団の信者の一人として・・・だから、その間に、このブベールの宝を守るために、何十人もの海の冒険者や海賊たちの命を奪ってきたのさ・・・元海賊のこの私が!・・・私の体は三日に一度、特殊な薬を注入しなければ硬化して動けなくなってしまう・・・だから教団の命に従ざるを得なかった・・・そのつぐないはする・・・そこに転がっているルチレン教祖も教団の信者を結束させるために、百人以上の人間を殺してきたのさ・・・それは、私も同罪・・・グリ坊・・・私とルチレン教祖を、あの宇宙船が発射するときの荼毘()に付して欲しいのさ・・・」 「そんな!・・・母さん! この教祖はともかく、母さんを見殺しにはできないよ!」  グリンドーは子供に返ったようであった。 「なーに、もう・・・私の頭部を維持するためのアメーバ心肺機能も・・・もう限界だよ・・・頼んだよ・・・グリ坊・・・最後に・・・キスをしておくれ?」  グリンドーは顔を寄せると、アルネラの唇のすぐ横に涙とともにキスをした。 「ありがとう・・・元気で・・・グリ坊・・・会えて・・・良かっ・・・た・・・」  アルネラはそう言い残すと、グリンドーの両手の中で静かに、その頭部の機能を停止させ、その右手もダラリと垂れてアメーバの体の中に沈みこんだ。
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