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第五節 決別と旅立ち その2
「急げ! もたもたするな! エンジン全開だ!」
船長のパプラが赤銅色の伝声管に向かって叫ぶ。
「アイ! キャプテン!」
伝声管から応答があると同時に元海賊船ブラックラフト号は、その舳先から波しぶきを上げてブベール島からの離脱を開始した。
「ありがとう!・・アルネラ母さん・・・」
急いで船尾に向かい、船から身を乗り出すようにしてつぶやくグリンドーを、そのすぐ横でオレージナは支え、同じようにつぶやいた。
「グリンドーのことは任せてね・・・アルネラさん!」
───そのとき! 甲板に放り出されていたオレージナの量子通信自動書記機がカタカタと音を立て始めた。
「ブルアンから通信か?!」
その音に目ざとく気づいたブラーウ医師が声を上げる。
その声にグリンドーは素早くブラーウの元に駆け付け、量子通信自動書記機が記していくメッセージを読んだ。
「『ブルアンです! みんな、助かったんですね? 良かった! 宇宙船のモニターにみんなの姿が映っています』・・・そうか! 宇宙船からはこちらが見えるのか!」
グリンドーは、困難の後に、最愛の息子に再会できた父親のように嬉しそうに言った。
そして、早速、量子通信自動書記機を使って返事を書いた。
「ブルアン! もう坊ちゃんとは言わねえよ! その宇宙船はどこに向かうんだい?」
すると、早速、速記のように返事のメッセージが来た。
『宇宙船の計器が指しているのは月だよ!』
「月か!遠いな! お前が戻ってくるまで、お前の母さんと宿屋はオレとオレージナでしっかりと守っていくから心配するな!」
『ありがとう。グリンドーさん! もう発射されるようだ。僕とケルガで月に行って、きっと治療薬を持って帰るよ!』
「楽しみに待ってるぜ! お前たちになら必ずできる!」
『うん。 がんばるよ! それじゃ、しばらく、さようなら!』
「いい航海を! ブルアン! ケルガ!」
そのタイミングで、宇宙船はその下部から轟音とともに真っ赤な炎と雲のような大量の白い水蒸気を吐き出した。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』
白く輝く宇宙船は徐々にブベールの黒い塔から浮き上がると、みるみるうちにその速度を速め、やがてオレンジの炎と白く長くたなびく雲の煙突とともに空高く撃ち出されていった。
そして、その姿は白い鉛筆のように、遠くを飛ぶ白い鳥のように・・・そして、ぼんやりとした豆粒のようになると、轟音と白く長い雲のツリーとともに、空の彼方にかすんで消えていった。
「・・・行っちまったな」
グリンドーがそう言うと、傍らのオレージナは彼に寄りかかるようにして答える。
「うん・・・きっと二人はうまくやるよ」
「そうだな・・・この星の未来は、あの若い二人に託された・・・私たちは、彼らが帰ってくるまで見守っていよう!」
グリンドー達の横に立つパプラ船長は長く美しい銀髪を風になびかせながら、そう付け加えた───
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