MPD2100

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バーテンは舌打ちした。まるで借金取りでも見るような目で俺を見ている。 「歌舞伎タウンに行くと言ってた」 「歌舞伎タウンのどこだ」 「リンガという店の地下だよ」 「どういう店だ」 「知らねえよ」 「あと十秒でおまえの脳内記憶をハッキングできる」 「分かったよ。メテオに義理立てしてもしょうがねえ。知ってることを全部喋るから脳味噌を探るのは勘弁してくれ」 赤毛のバーテンを睨むのをやめる。 「話せ」 「リンガは普通の店だよ。どうということもない安酒場さ。ところが地下では何かのヤバいオークションが行われてるらしいんだ。メテオはそこの会員なんだとよ」 「詳しく教えろ」 「知らない。本当だよ。俺は地下には入れてもらえないんだ。地下に降りるには合言葉を言わなきゃならない。合言葉は毎日変わる。合言葉を知らされるのは会員だけ。合言葉が分からないと絶対に入場出来ない」 「分かった。ありがとう」 ダウンロード済みの増本メテオの記憶を探る。探れない。リンガの地下に関する記憶が意図的にブロックされている。暗号化されているのだ。解析するためには署のコンピューターが必要だ。 脳内電話を使い、岸田警部補の意識を呼び出す。 ――岸田、至急やってもらいたいことがある。 ――解析ですか、朱雀警部。 ――そうだ。そっちにデータを送信する。増本メテオの記憶の一部分が暗号化されている。このままでは記憶を辿れない。解析して欲しい。 ――出来しだい、連絡します。 カウンターを離れ、デジタル音楽に耳を傾けながら十分ほど待った。 脳内で呼び出しベルが鳴る。 ――俺だ。 ――リンガの地下に関する記憶を復元しました。地下のオークション会場では人身売買が行われています。 ――メテオは奴隷商人か。 ――そのようですね。ところで、地下オークション会場ですが、最近出来たばかりのようですよ。 ――道理で警察が把握出来てないわけだ。で、今夜の合言葉は? ――ロード。合言葉はロードです。 ――俺が単独潜入する。君は人員を配置しておいてくれ。それから、パトロールカーを孤狼の前に乗り捨てるから回収を頼む。 ――了解です。 店を出た。流しのタクシーを拾う。 「歌舞伎タウンまで。急いでくれ」 警察の身分証を見せた。運転手は頷く。 「まかせてください。自動運転の倍の速さで到着して見せますよ」 運転手の言葉はハッタリではなかった。歌舞伎タウンまで五分もかからなかった。 「ありがとう。良い腕だ。やはりタクシーは人間の運転に限る」 チップをはずんでやる。
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