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バーテンは舌打ちした。まるで借金取りでも見るような目で俺を見ている。
「歌舞伎タウンに行くと言ってた」
「歌舞伎タウンのどこだ」
「リンガという店の地下だよ」
「どういう店だ」
「知らねえよ」
「あと十秒でおまえの脳内記憶をハッキングできる」
「分かったよ。メテオに義理立てしてもしょうがねえ。知ってることを全部喋るから脳味噌を探るのは勘弁してくれ」
赤毛のバーテンを睨むのをやめる。
「話せ」
「リンガは普通の店だよ。どうということもない安酒場さ。ところが地下では何かのヤバいオークションが行われてるらしいんだ。メテオはそこの会員なんだとよ」
「詳しく教えろ」
「知らない。本当だよ。俺は地下には入れてもらえないんだ。地下に降りるには合言葉を言わなきゃならない。合言葉は毎日変わる。合言葉を知らされるのは会員だけ。合言葉が分からないと絶対に入場出来ない」
「分かった。ありがとう」
ダウンロード済みの増本メテオの記憶を探る。探れない。リンガの地下に関する記憶が意図的にブロックされている。暗号化されているのだ。解析するためには署のコンピューターが必要だ。
脳内電話を使い、岸田警部補の意識を呼び出す。
――岸田、至急やってもらいたいことがある。
――解析ですか、朱雀警部。
――そうだ。そっちにデータを送信する。増本メテオの記憶の一部分が暗号化されている。このままでは記憶を辿れない。解析して欲しい。
――出来しだい、連絡します。
カウンターを離れ、デジタル音楽に耳を傾けながら十分ほど待った。
脳内で呼び出しベルが鳴る。
――俺だ。
――リンガの地下に関する記憶を復元しました。地下のオークション会場では人身売買が行われています。
――メテオは奴隷商人か。
――そのようですね。ところで、地下オークション会場ですが、最近出来たばかりのようですよ。
――道理で警察が把握出来てないわけだ。で、今夜の合言葉は?
――ロード。合言葉はロードです。
――俺が単独潜入する。君は人員を配置しておいてくれ。それから、パトロールカーを孤狼の前に乗り捨てるから回収を頼む。
――了解です。
店を出た。流しのタクシーを拾う。
「歌舞伎タウンまで。急いでくれ」
警察の身分証を見せた。運転手は頷く。
「まかせてください。自動運転の倍の速さで到着して見せますよ」
運転手の言葉はハッタリではなかった。歌舞伎タウンまで五分もかからなかった。
「ありがとう。良い腕だ。やはりタクシーは人間の運転に限る」
チップをはずんでやる。
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