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「オークションナンバー4。マリア・ハリコワ。国籍ロシア。十四歳」
畏まった場内アナウンスと共にバニーガールが台車を押してステージに現れた。台車には透明な強化アクリルガラスのショーケースが載っている。ショーケースの中には全裸の少女が蹲っていた。もう逃げられない。少女は自らの運命に絶望。そして震えていた。
客席の盛装した金持ちたちは目の色を輝かせ、一斉に入札してゆく。
金額がつり上がるにつれ、次々と脱落。最後には青年実業家風の男と七十歳を越えた老紳士の一騎討ちとなった。勝負は青年実業家が征した。
「クソっ」
老紳士は地団駄を踏んでいる。
落札額は五億円を僅かに越えていた。
客席に増本メテオの姿を探す。見つけた。最前列だ。
マリア・ハリコワを載せた台車がステージ上から撤去された。
脳内でベルが鳴っている。精神電話。ベルは鳴り止まない。岸田警部補から。やむを得ず応答。
――潜入中だ。分かってるだろう。
――すみません。しかし緊急なんです。増本メテオの記憶にさらに暗号化されたまったく別な記憶を発見したんです。
――それで?
――やはり警部が睨んだ通り、メテオは北条グリーンを誘拐しています。メテオは誘拐したグリーンをウクライナの富豪ラズコフに十億円で販売する予定でした。しかし取り引き前にマフィアのラムにグリーンを横取りされたんです。グリーンは今夜のオークションに出品されます。
――メテオはグリーンを落札して奪い返すつもりなのか?
――違います。会場の客を皆殺しにしてラムに赤恥かかせようとしてます。
――そんなことしたらメテオ自身生きて帰れないぞ。
――覚悟の上なんでしょう。
――馬鹿げてる!
――阻止出来ますか。我々の突入準備は万端ですが、上の許可が下りません。
――なぜだ。
――分かるでしょう。ラムは警察上層部に計り知れない影響力を持っているんです。上の連中は突入対象がラムの縄張りと聞いて尻込みしてるんですよ。
――どんな手を使ってもいい。許可を取れ。許可が下りしだい突入しろ。切るぞ。
「オークションナンバー5。国籍、日本。北条グリーン。十七歳」
台車を押しながら、バニーガールがステージ中央に進んでゆく。台車の上には強化アクリルガラスのショーケース。
黒服ふたりが俺の背後に立った。
「精神電話を使いましたね。ルールに反しましたのでご退場いただきます」
「次から気をつける」
「次はございません。手荒な真似はしたくないのです。速やかに席をお立ちください」
黒服の手には銃――。
俺は立ち上がる。立ち上がりながらオンライン脳に切り替えた。同時に、精神力増幅装置サイコブースターに生体エナジーの流入を開始する。エナジーが満タンになれば念動力を自在に使える。
光学迷彩を作動。生体エナジーを大量消費する光学迷彩は数十秒間しか使えない。だが、その数十秒間が生死の境を分ける。
人工筋肉が躍動する。跳躍して天井を蹴る。壁際に着地。壁に沿って全力で走る。走りながら黒服たちの武装レベルを探る。H&K短機関銃。危険度95%。
生体エナジーを大量に使いすぎた。光学迷彩は効果が徐々に薄れかけている。俺の後を追うように短機関銃の弾痕が壁に走った。
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