MPD2100

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二十一世紀最後の年も終わりを迎えようとしている。〈孤狼〉の店内は享楽に溺れかけた男たちと女たちで溢れている。 曲名も知らないスローバラードが気だるい雰囲気を醸し出している。紫色の煙が漂う中を色とりどりの装飾用レーザーが縦横無尽に走る。 止まり木に腰掛けた。 磨き抜かれたスチール製のカウンターが光輝いている。バーテンが俺を一瞥する。目を逸らしてから再び俺に視線を戻し、そのまま値踏みするように睨む。 俺は作り笑いしてみせる。 「女を探している。名前は北条グリーン。十七歳。知らないかね」 バーテンを見つめる。人体改造の程度を目視で把握する――赤外線暗視装置付きの義眼。人工強化筋肉。左手は義手。五本の指先にそれぞれ強化セラミック製三十二口径の銃身を仕込んでいる。見るからにタフガイ。そして〈オンライン脳〉の状態にある。 バーテンは無言。顔を左右に振った。 「そうかい。なら、ジントニックをくれ」 バーテンは軽く頷いた。赤外線暗視装置付きの義眼で俺を睨みながら、身体の向きを変えた。グラスを手に取っている。 俺はバーテンの後頭部の端子を一瞥。脳内へのハッキングを試みる。 現代人は睡眠や治療など一部の状況を除けば常に頭脳をインターネットに接続したオンライン脳の状態にある。だが、他人の脳内に不正アクセスするのは容易ではない。人々はインターネット空間のありとあらゆる情報を瞬時に取り入れようとするが、決して自分の脳内情報を第三者に解放しようとはしないからだ。 パスワードだ。パスワードを探らなければならない。 バーテンの脳内にアクセスすべく、ありとあらゆるワードを超高速で試す。 トライ。そしてエラー。 早く。早く。もっと早く。 〈水晶181926〉――合致した。 バーテンの思考と記憶が俺の脳内に流れ込む。その間、五秒。ダウンロード完了。 バーテン――増本メテオの脳内には北条グリーンの記憶の断片すら存在しない。 カウンターに置かれたジントニックで喉を潤し、カウンターの赤い円に手のひらを乗せた。会計が済む。
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