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 わたしには二つ下の弟がいる。  だが、弟は定職にも就かずいつも実家にいる、いわゆるニートというやつだ。  親の脛をかじり、いつまでもゲームやアニメなどに夢中になり、たまにわたしが実家に帰ると年金暮らしの両親に小遣いをせびる姿しか見せない。本当にどうしようもない駄目な弟だと、正直嫌気がさしていた。  数年前にOLを辞めたわたしは結婚し、先日、初めての子供を授かった。  可愛らしい男の子だ。  今日は実家に戻り、年老いた両親に初孫をお披露目に来たのだが、まさかそこで、あんな恐怖と絶望を味わうことになるとは、そのときのわたしには思いもしないことだった。  赤ん坊を抱き実家に帰ると、玄関口で待ち構えていた両親に出迎えられた。初孫を見た両親は瞬時に破顔し、泣きそうになるくらいに喜んでくれた。そして、そのまま居間に向かうと、そこに、いつもは部屋に閉じこもって大音量で気持ちの悪い美少女系のアニメを見ている弟が何故かいたのだ。  もしかしたら、弟も赤ん坊の誕生を祝いたくて居間で待っていたのかもしれない。そう思うと一応、血の繋がった弟であるため邪険にもできず、嫌悪感を無理やり引っ込めて作り笑いを浮かべて「元気だった?」と久しぶりの挨拶を交わす。弟も適当に「まあ、ね」と挨拶を返してくる。会話はそれ以上続かなかったが、実に数年ぶりの会話であることに気付き、わたしは内心苦笑する。  わたしは、それから弟には目もくれず両親に子供を渡し、親子三人で楽しく世間話に興じていた。  すると、いつもはすぐに部屋に戻る弟が、今日に限っては何故かいつまでも居間に留まり赤ん坊の方ばかり見ていた。  その時、わたしは、こんなダメな弟でも甥っ子は可愛いものなのか、と考えていたのだが、弟の内心は別のことを考えていたのだ。  弟はしばらくの間、赤ん坊を見つめながら何かを考える仕草を見せると、突然、にたぁ、と気持ちの悪い笑いを浮かべたのだ。 「そうか、ようやく思い出したよ、姉ちゃん」  弟はわたしにそう呟き、不気味な笑顔を見せると、くすくすと笑いながら部屋を立ち去った。  そして、すぐに戻ってくると、わたしに一枚の写真を手渡してきた。  それを見て、わたしは呼吸を止めた。恐らく、そのときのわたしの顔は恐怖と驚愕の入り混じった表情で強張っていたに違いない。 「あ、あ、……そんな、そんな馬鹿なことって……!!!?」  わたしは身体を小刻みに震わせながら写真を落とす。  わたしの異変に気付いた母が、落とした写真を拾い上げると「あら、懐かしいわね」と声を上げた。  その写真には赤ん坊の弟を抱く幼いころのわたしの姿が写っていた。  問題はそこではない。弟だ。その姿を見て、わたしは恐怖した。  赤ん坊のころの弟と、わたしの息子が瓜二つだったのだ。  そして、弟はわたしの肩に手を置き一言こう云った。 「ほーら、あなたの息子の未来の姿がここにありますよ」  その時、わたしは、なにかにすがるように天を仰いだ。それが神様でも悪魔でも構わない。贅沢は云いません。どうか息子に普通の未来を下さい、とただただ祈った。  そうして、わたしは自分の息子だけは絶対にオタクにはさせないことを強く強く心に誓ったのだった。  完
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