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1 最強の敗け犬
コクピットの中で聞く戦術参謀の作戦前ブリーフィング
それはいつもながら、何故か素直に頭へと染み渡っていくようだ。
灯りを落としたTMA(戦術機動多脚装甲車)のコクピットの中
静かに明滅するモニター
鉄、合成樹脂、そして作動油の臭い
イヤホンから基調音のように響いてくる仄かな雑音
戦術輸送機のターボファンエンジンが発する絶え間無い細かな振動
五感に忍び入ってくるような様々な細かいノイズ、それらは逆に集中力を増してくれるような心持ちがする。
戦術参謀の、淡々かつ殺伐としたブリーフィングは終わった。
冷淡で突き放すような彼の物言いは、俺たちがこれから送り込まれる戦場の救いようの無さに絶妙にマッチしているようだった。
話を要約すると、例の部隊の大隊長の穴だらけの作戦指揮に、未熟で真面目な小隊長達の勇み足が絶妙に噛み合ってしまい、ものの見事に敵部隊の待ち伏せ戦術の罠に嵌まってにっちもさっちもいかない情勢、とのことだった。
もう間も無く、為す術も無いままに敵中で完全に包囲されるのだろう。
あと半日もすれば、あの哀れな部隊は、全滅か、あるいは降伏するかしてしまうのだろう。
件の大隊長のMSA(心理安定度分析)を聞くに、この破滅的な情勢では、半ば錯乱状態に陥っているに違いない。
情勢も最悪、指揮はグダグダ、そして士気もきっとダダ下がりで統制もまともに取れていないのだろう。
そんな情勢なので、例の部隊の救助ということで、撤退支援専門部隊たる俺達の出番となる訳だ。
ステルス化された戦術輸送機で輸送中の我ら第5小隊の5機のTMAは、あと10分もすれば戦闘エリアに投下されるだろう。
勝利も栄光も一欠片も無い、敗勢真っ只中な戦場に放り込まれ、その敗けを最小限に留めるのが俺たちの仕事だ。
「火中の栗専門」
「最先任敗残兵」
「戦場の夜逃げ屋本舗」等々
散々な渾名を師団中から賜っている、
そして忌み嫌われている、
それが、我々の大隊だ。
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