時渡りの法則

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時渡りの法則

渦の中に飛び込んだ少年は体制を整えて、空を飛ぶ鳥の様に滑空体制を取った。依頼人から渡されたターゲットの写真を見ながら頭の中でその陰湿極まりない行為が行われ、悲しい最後を迎えた時間軸を探った。右側の方で「こちらだ」と言わんばかりにひと際輝きを放つ何かが少年に合図を寄越した。体をその輝きの方へ向けると、少年はアッと言う間に探りたかった世界の時間軸に辿り着いた。だが、その時間軸の扉は固く閉ざされ、厳重に鎖が巻かれ鍵が掛かって居た。 《あなたの入界を認める事は出来ません》 頭の上でプログラムされた女性の声がそう告げた。彼等の様に時渡りをする者には一部を除いて、条件が課せられている。 1.自分が生まれる前の時間軸には入れない。 ※そもそも自分の時間軸が存在しない 2.自分が生まれなかった世界には時間制限付きで入れる。 ※1と同様、自分の時間軸は存在しないが「可能性」が残った世界である。 3.同じ時間軸に二人の全く同じものが存在し得る時間は10分。長くて30分迄とする。 ※正、成長段階、成人段階、において全く同じとは判断出来ない場合はその限りではない。尚、この場合であってもその時間軸の自分に自分を認識される事はご法度である。 4.その時間軸に長期滞在する場合はその時間軸に存在する自分と全く同じ存在を粛清しなければならない。 この為、ドッペルゲンガーに遭遇すると命を奪われると言われているのである。少年が探りたかったターゲットの自慢話の時間軸は少年が生まれる前のものだった為、時渡りが出来なかった。 「糞っ!」 自分の太ももを強く叩いて悔しがっていると、背後から誰かがやって来るのを感じて、直ぐに腰に据えたナイフに手を掛けて間合いを取った。 「やっぱりねえ~!」 現れたのは事務所で寝ていた男だった。少年はそれでも警戒を解かない。目の前の男が自分の知る人物である保証は何処にもない。 「俺だよ~お~れっ!」 そのまぬけな口調は少年が良く知る男のものだった。通常、成り代わったばかりの影はその当人に完全に至るまでに多少の時間が掛かる。男も少年も互いが成り代わられた時に直ぐに気づく様に自分自身に様々な細工をして成り代わりに要する時間を出来る限り引き延ばしている。互いが成り代わられたと分かった時は粛清する事を約束している。 「お前は帰って、おねんねしてな。ちゃあ~んと俺が情報持って帰ってやるからさぁ~」 男が扉に近づくと扉はあっさりと開いた。少年が隙をついて、潜り込もうとしたが「ブッブー」とエラー音が鳴って直ぐにはじき返されてしまった。 《あなたの入界を認める事は出来ません》 「分かったよ! もぅ! 帰れば良いんでしょ!」 少年は地団太を踏んで、元来た時間軸へと帰って行った。
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