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怖くて震えていると、後ろから何やってんだよ、おじさんと男の人の声がした。違和感はなくなり振り向くと、マスクと帽子を被った背の高い男の人が立っていた。
「お前、大丈夫か。怖いのはわかるけど、ちゃんと声を出してやめてって言わねえと駄目だぞ」
その人から発せられた声は英輔くんに似ていた。私は思わず目をじっと見る。
「おい、聞いてんのか」
「はい、えっと。助けて下さってありがとうございます。あの、その、この後ってお時間ありますか。お礼がしたいので」
何の確証もないまま私は彼を誘っていた。彼は私の誘いにこの後は無理だけど、今週の日曜なら空いてっけどと答えてくれた。
「良かった。あの、私の番号、書くので持って置いて下さい」
私は鞄からメモ帳を取り出すと番号を書き始めた。
「日曜日のこと、お話ししたいです」
「ああ、わかった」
その人はそう言うと私の書いた紙を受け取り次の駅で降りていった。それから何駅かして会社の最寄り駅で降りた。
「おはようございます」
「おはよう、未来ちゃん」
オフィスに着くと、成瀬光先輩が声をかけてきた。この人は馴れ馴れしくて、私が入社した時から何かにつけては絡んできて苦手だ。
「お、おはようございます」
「あれ、まだ緊張してる感じ?」
違う、緊張してるんじゃなくて苦手なんだって気づいてよ。
「あの、成瀬先輩、そろそろ朝礼始まりますよ」
「ああ、そうだね。じゃ、また後で、未来ちゃん」
朝礼が始まりいつも通りに仕事をこなした。
その日の夜、朝の彼から連絡が来た。日曜日のお昼に会ってくれるそうだ。
「何だろ、まだ確信ないけどそうだったら夢みたい」
携帯を握りしめ、ベッドの上でごろごろとする。
「今日は良い夢見られそうだな」
携帯の待ち受けに写る英輔くんにお休みなさいと言って眠りに落ちた。
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