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退室した瞬間、さっきまで読んでいたweb漫画の画面が戻ってきた。
スマホの履歴を見ても、たった今していたはずのチャットの履歴は見つからない。
そうだよな?
5年前に虹チャを検索した時、無くなってるのを確認したし。
……やっぱ、そういうこと?
思わず『真琴』のことを思い出してほくそ笑む。
今日は散々な1日だった。
転職したいと話したら彼女に振られた。
付き合って半年、結婚の話も出ていたから彼女にとって俺の転職なんか寝耳に水だったんだろうけれど。
ヤケクソでビールを飲みながらカップ麺を食べてWeb漫画を見ている途中だった。
画面上に突然懐かしい紫色のドアが現れた。
漫画をスワイプしていた俺の指は止まらず、その勢いのままドアをなぞる。
『お名前を入力してください』
懐かしい画面に昔のハンドルネームを入れて入室したら『真琴』がいた。
会話しながら思い出した、何となくあの日のこと。
テレビの横に置いてあるロケットのオモチャを握りしめて、ノートパソコンを立ち上げる。
『ゼロじゃないなら挑戦してみたらいいんじゃないですか? 本当にやりたかったんでしょう? 失敗したらまたその時考えれば』
簡単に言ってくれるわ、さすがだな。
パソコンが立ち上がるまでにロケットオモチャを空中に放り投げてキャッチ。
JAXAのホームページで応募要項を確認しながら、もうひと画面で退職届をダウンロードして印刷する。
この先、俺がどうなっていくのか全然わからないけどな。
挑戦する機会があるなら、してみようって思う。
何もせずに後悔したくない、真琴のためにも。
20年前の真琴に後押しされたんだから。
立花 真琴 32歳男性
志望動機は地球を宇宙から観てみたかったから。
ロケットをポーンと宇宙に放った。
【完】
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